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THE MIDDLE EAST MEDIA RESEARCH INSTITUTE

調査および分析シリーズ


 
Inquiry and Analysis Series No 1305 Mar/23/2017

恐れを抱き軍事的威嚇と挑発を抑制、士気の維持をはかり代理戦争を推進
―トランプ政権の動向を窺うイランの対応―

A・サヴィヨン、Y・カルモン*

はじめに

アメリカのトランプ新大統領は、イラン革命政権敵視で知られるが、新政権発足以来、そのイランは新しい現実に直面している。アメリカは、湾岸諸国、アラブ諸国を糾合して、組織化をはかりつつある。アラブのメディアがアラブNATO≠ニ呼ぶもので、イランが相手である。一方イランは、近年さまざまな分野でロシアとの協力関係があるものの、ロシアが自国の重要国益のためこの協力関係を放棄しつつある、と感じている。重要国益とは、アメリカ及びトルコとの関係である。ロシアとしては、制裁解除のためアメリカとは理解し合い、地域のパートナーとしてはトップのトルコとも理解し合っておきたいということである※1。

この状況変化で、イランはまわりに包囲環が形成されつつある、と感じている。イラン革命政権を相手とするアメリカ、ロシア、アラブ(イスラエルを含む)の連合である。

新しい状況に直面するイランの反応

新状況へのイランの対応は、アメリカの反イラン活動に対する恐怖を特徴とする。それは、いくつかの分野でみられる。

[1] 相当な軍事的抑制と長距離ミサイルの試射停止(トランプの警告に対する反応)

2017年1月29日、イランがホラムシャハル長距離ミサイルの試射に失敗した後、トランプ政府はイランが通告をうけている≠ニ発表した。当時イランは、別の長距離ミサイルの発射を準備中で、具体的な段取りを進めていた。アメリカの警告をうけて、発射は中止されたのである。イスラム革命防衛隊(IRGC)航空宇宙軍司令官ハジザデー(Amir Ali Hajizadeh)は、3月9日不満の意を表明し、衛星の打上げすらできない程抑止されているとし、「我々は衛星打上げを目的とする非軍事用ロケットをもっている。しかし、アメリカの怒りっぽいトーンのため、格納庫に入れられた…いつ迄脅迫され妥協しなければならないのだ。我々が戦略を変えず、泥に足をとられた政府要人の命令に従って行動を続けるならば、我方の状況は日々劣化していく」と言った※2。

下の画像は、ImageSat International (ISI) がとったもの※3。セムナンの発射場を示している。左の映像(1)は1月17日に撮影されたもので、発射サイトおよび発射台が作動していないことを示す。地上にイラン宇宙局(ISA)の紋章、フェニックス(Simorgh)軌道衛星打上げロケットの紋章が見える。右の映像(2)は、2月3日の撮影で、発射台が発射位置に移動し、まわりに車両が多数みえる。



下の映像(3、4)はやはり2月3日の画像で、発射前のVIP訪問時にとられたもの。統合施設を示す。VIP車両を含む多数の車、そしてVIP警護隊のジープが映っている。


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画像(5)は2日後の2月5日撮映で、発射サイトは再び作動していない状態にある。



ミサイル発射キャンセルの翌日にあたる2月4日、IRGC航空宇宙軍司令官は、「我々のミサイル試射に関して、アメリカは口実を探している。我々の安全保障を傷つけたいのである。我々の核能力、科学、ミサイルの打撃力等々の問題を取引対象にしている。勿論、イスラム政権とイラン国民に対する敵意を(正当化するための)口実にすぎない」と言った※4。

イランの軍事的自粛を示す例は、ほかにもある。例えば2017年2月9日の国防相デフガン(Hossein Dehghan)の声明で、イランの革命記念日の前夜、国防相は「イランによるミサイルの追加試射に関する、アメリカ筋とメディアの露出による新しいクレーム」について、次のように語った。

「この欺瞞のクレームは、敵をつくりイラン恐怖症をつくりだすためのものだ。これは、シオニスト政権が意図したもので、嘘を流しながら煽動しているのである。

第一これは嘘の主張である。(ミサイル発射など)起きていない。第二、たとい試射があっても、彼等には関係ないことである。第三、イランのミサイル計画はスタンダードなプロジェクトであり、ミサイル試射はその一環にすぎない。計画は事前に策定されているのである。試射は我国の防衛能力を維持するものである」※5。

[2]米海軍艦艇に対する挑発の停止

革命防衛隊の公式声明でも、イランの領海を侵犯した外国艦船の乗組員を取扱う任務は、IRGCから港湾・海運局(PMO)に移管されたとしている。アメリカ国民を侮辱する行為に対する、トランプ政権の苛烈な対応を恐れてのことである。2016年1月に起きた事件では、オバマ政権から、そのような対応をされなかったが、今度は違うという警戒心がみられる※6。

[3]ペルシア湾で米海軍艦艇を血まつりにあげて沈めるという公然たる威嚇の停止※7

敵意にみちた反米声明のほぼ全面的な封印がみられる。「アメリカに死を」というスローガンは、政権スポークスマンの談話からほぼ全面的に消えた。ハメネイ最高指導者自体も言わなくなった※8。星条旗を公共の全面で焼く行為もなし、である※9。

イランのイデオロギー守護紙kayanは、2017年3月16日付紙面で、ロハニ大統領率いる政府の姿勢を非難し、「トランプが選出された時、(ロハニ政権の関係者達は)トランプは予想のつかぬ人間で、熟慮しないで決断をくだす恐れがある。無茶をされたら困るから怒らせるようなことを言わない方がよい…と言った」とし、その弱腰を叩いた※10。

[4]国民の士気の維持高揚をはかる

我に国の力あり、神に対する信仰を守り、軍の対米軍事力を信じて待てという堅忍不抜のよびかけ。その一例が、2017年2月7日、革命記念日前夜に放映されたデフガン国防相のテレビインタビュー。デフガンは、トランプが政権の座についた後、イランはアメリカの脅威に対して防衛姿勢を強めているとし、次のように言った。

「我々は我国にとって、ほかのムスリム諸国にとって、ムスリムにとって防衛が必要である、と考えている…敵は虎視眈眈として待ち構えている。誰も手出しができないよう、我々は身を固めておかなければならない。防衛の任にある者は、一丸となって敵の攻撃に備えておかなければならない。敵が攻撃すれば、我々は敵を征伐する…我々の周辺諸国は我々には脅威ではない。我々に対する脅威は、傲慢な政権(アメリカ)として知られる地域外勢力である。我々が打撃力を付与するものを取得しなければならぬのは、このためである。つまり、非対称性戦争である。我々は、不意打ちされぬように守りを固めておくだけでなく、敵を不意打ちし、大打撃を与えることができるようにしておかねければならない…」※11。

国民の士気高揚をはかる努力は、革命防衛隊副司令官サラミ(Hossein Salami)の演説で表明されている。サラミはよくアメリカ威嚇をしてきた人物で、ペルシア湾の米軍を叩き潰すと言っていた。2017年2月2日相手が有志連合を組む動きを見せていることに対して、防衛能力を高めようと促し、次のように言った。

「今日、敵方は我々の偉大な革命に対し徒党を組んだ。しかし彼等の野望は潰えた。全世界が我々を地上から抹殺することを望んだ。しかし殉教者達が、信仰とイスラムそして指導者に対する茶順によって如何なる超大国も撃破できることを、示してくれた。聖戦と殉教によって、我々は如何なる勢力にも立ち向かい、必ず撃破する…。

我等の光輝ある歴史は、傲慢勢力(アメリカ)に対する勝利でみちている。イランのイスラム政権は、イスラム世界に大きい影響力を持つに至った…我国は偉大である…我々は偉大なる聖戦にかかわっている。そして、ムスリム(シーア派を指す)が抱く殉教の夢、そして我々の道を照らすコーランの教えがあれば、我々が敗北することはなく、逆に敵を敗北せしめる…。

イランの強大なミサイル戦力は、前例がない程のグローバルな抑止力のなかに含まれている。敵が我方の核の力を知れば、あわててシェルターに逃げこむだろう。

イラン国民は、内なる信仰に依存することで、力をつくることを学んでいる…毎日、防衛用ミサイル、艦船、ランチャーの数が増えつつある。陸、海、空共にこの国―英雄と殉教者の地―のコントロール下にあるのだ」※12。

IRGC航空宇宙軍司令官、ハジザデーも、2月4日の演説で、アメリカの攻撃に耐える力を強調し、次のように述べた。

「アメリカ勢力による脅威は、口先だけのことである。私は、軍事力を知る立場にあり、外国の威嚇が我々イスラム政権を脅かすことはないと、自信を以て言える。我々には神の無限の力がある。アメリカは物質の装備と力に依存しているだけである。如何なる状況になっても、我々は必ず勝利する。我々は防衛力増強のためなら一瞬たりとも時間を無駄にしない…1日24時間我々は国家の安全を守るため働いている。敵が少しでも間違いを犯せば、我々のミサイルがその頭を電撃する」※13。

[5]抵抗正面を強化し、イランの敵―西側、イスラエル、サウジアラビア及び湾岸諸国―に対する戦いを、イランの代理勢力に任せる

この代理勢力には、イラクのシーア派民兵、イエメンのフーシ、シリア、ヒズボラ、パレスチナ諸派が含まれる。イランによって操作されているが、イスラエルに対する戦闘再発はそのひとつである。次を参照:MEMRI Special Dispatch No. 6811,「トランプ政権の脅威に備え軍事・政治的準備を進めるイラン―対露戦略同盟の形成と、イスラエル対ヒズボラ、パレスチナ戦闘の激発」March 3, 2017。

イエメンでは、イランが支援するフーシが、3月17日にサウジアラビアを狙ってミサイルを発射した。3月17日、サウジアラビアのアラムコ施設(Jajan)を狙って、中距離弾道ミサイルを1発発射した※14。同じ3月17日、フーシ派は、金曜礼拝中の時間に、マーリブ県の軍基地内モスクに、ミサイル3発を発射した。この攻撃で将校及び下士官兵数十名が死傷した※15。更に、イエメンの現地産ミサイル「ボルカン2」が1発、リヤドのキング・サルマン航空基地を狙って発射された※16。

更にシリア政権軍は、イランからヒズボラ向け戦略ミサイルを搬送中のコンボイをイスラエルが攻撃したことに関し、その対応をエスカレートしつつある。これまでと違って、今週シリア政権軍はイスラエル機を狙って対空ミサイルを数発々射した。MEMRIは、シリアのアサド大統領及びヒズボラに対するイランの圧力の結果である、と考察する。イランはイスラエルとの軍事対決をスパークさせたいのである。

更に又、イラン政権は、パレスチナ正面を活性化して、イスラエルと戦わせようとしている。2017年2月21日、テヘランは第6回パレスチナインティファダ支援会議を開催した。最高指導者ハメネイは、開会演説で、対イスラエル軍事闘争で抵抗運動を支援する必要性を強調し、運動諸派に対するイランの支援は、抵抗(対イスラエル闘争)に対する運動の献身レベルと連動する、と言った。ハメネイは、ウェストバンクにおける抵抗には継続的な支援が必要、と特に強調し、「抵抗の基軸は、勇気ある抵抗の子供達を育てたパレスチナ人民の不動の精神と持久力にある。パレスチナ人民とその抵抗のニーズに応えることが大事であり、我々全員が堅持しなければならぬ責任である。その場合我々は、ウェストバンクにおける抵抗の基本ニーズを無視してはならない。何故ならば、ウェストバンクが弾圧されたインティファダの重荷を背負っているからである。次を参照:MEMRI Special Dispatch No. 6795, Khamenei In Speech At Iran's Sixth International Conference In Support Of Palestinian Intifada: 'We [Stand] With Every Group That Is Steadfast On This Path [Of Resistance]'; 'Cancerous Tumor' Israel Must Be Cured In Several Phases, February 21, 2017).

イランの対イスラエル活動の一環として、最近ヒズボラのナスララ書記長が、イラン及びレバノンのメディアによるインタビューで、イスラエルを激しく非難、攻撃した。

[6]ロシアをイランとの戦略同盟に結びつけようとしている

次を参照:MEMRI Special Dispatch No. 6795「トランプ政権の脅威に備え軍事・政治的準備を進めるイラン―対露戦略同盟の形成と、イスラエル対ヒズボラ、パレスチナ戦闘の激発」。

[7]JCPOA(包括的共同作業計画)にすがろうとしている

かつてイラン代表は、アメリカの出方次第では、イランはJCPOA前の状況へ戻ると述べたが、アメリカの行動があったにしても、イランはJCPOAにしがみつく。

この文脈に従ったMEMRIの考察によれば、イランは如何なる状況下でもJCPOAから離脱しないであろう。たといトランプ政権が対イラン制裁を強め、たといアメリカが中東地域のイランの権益に対して軍事行動をとっても、イランはJCPOAに固執するであろう。JCPOAはイランに核保有国の地位を認めているので、イランにとっては歴史的成果なのである。更にイラン政権を代弁するkayhan紙によると、ロハニ政権はJCPOAを、対イラン政権戦争を防止する道具、として考えている※17。

*A・サヴィヨンはMEMRIのイランメディアプロジェクト長、Y・カルモンはMEMRI会長。


[1] 次を参照:MEMRI Inquiry and Analysis No. 1303, 'Iran Diplomacy' Following Tripartite U.S.-Russia-Turkey Military Chiefs of Staff Meeting: 'If You Aren't Sitting At The Table, You Are Being Eaten At The Table, ' March 15, 2017.

[2] Tasnim (Iran), March 9, 2017.

[3] ISI – ImageSat International は、極めて解像度の高い地上の画像を提供する私企業。次を参照: http://www.imagesatintl.com/ .

[4] Tasnim (Iran), February 4, 2017.

[5] Asr-e-Iran (Iran), February 9, 2017.

[6]  IRGC海軍部司令官ファダビ(Ali Fadavi)によると、IRGCは港湾・海運局(PMO)と協定を結んだ。それによると領海を侵犯してIRGCに捕まったすべての外国海軍艦艇乗員は、PMOに引渡される。Defapress.ir February 27,2017。

[7] 2017. 2017年3月4日、IRGCのボート数隻がアメリカ海軍の駆逐艦に接近し、航行コースを変えさせた。後日イラン当局、通常航路からそれていたので、その措置をとったと述べた。Tasnim (Tran),March 8、2017。

[8] 専門家会議々長で憲法擁護評議会事務局長ジャンナテ(Ayatollah Ahmad Jannati)が、2017年2月10日の革命記念日パレードで、アメリカに死を≠ニいうスローガンを叫んだ有力者。彼は、「今日我々はアメリカに死を≠フスローガンを斉唱しその国旗を踏みにじる。悪と妥協することなく引下がることもないという意志表示である。我々は世界で孤立していない。アメリカの国旗を踏みにじる国は沢山ある。アメリカに対する敵意は、抑圧され自由を求める者全員のスローガンである。我々は悪に対する敵意を棄てない。我々は侮辱にはノー≠フスローガンを常に斉唱する」と言った。Fars (Iran), February 10, 2017

[9] トランプ反対の票を投じたアメリカ国民に対する敬意の表明として、これを正当化しようとした者もいる。

[10] Kayhan (Iran), March 16, 2017. IRGCやKayhanのようなイデオロギーの牙城は、この自重政策について、プラグ マチックな陣営とロハニ大統領を非難する。ハメネイ最高指導者はこの政策に同意し、先導している。 Kayhan (Iran)、March 16, 2017。

[11] Tasnim (Iran), February 8, 2017.

[12] Tasnim (Iran), February 2, 2017.

[13] Tasnim (Iran), February 4, 2017.

[14] Al-Akhbar (Lebanon), March 18, 2017.

[15] 'Okaz (Saudi Arabia), March 18, 2017.

[16] Al-Quds Al-Arabi (London), March 18, 2017.

[17] Kayhan (Iran), March 16, 2017.


 

 

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