メムリ(MEMRI) - 中東報道研究機関 調査および分析シリーズ
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THE MIDDLE EAST MEDIA RESEARCH INSTITUTE

調査および分析シリーズ


 
Inquiry and Analysis Series No 1340 Sep/9/2017

アラブ世界の学校カリキュラム:今日の状態
N・モーゼス*

はじめに

イスラム国(IS)、アルカイダ等のテロ組織が、イスラムの名においてアラブ諸国を含む世界各地でテロ攻撃を行なっている。これから、教育と過激主義のかかわりが注目されるようになった。アラブ世界における学校のカリキュラムがアラブ青少年の組織参加に果してかかわっているのか、それが事実ならどのようなかかわり方をしているのであろうか。

アラブ諸政府は、学校カリキュラムの抜本的変更を内外からせまられている。特に過激主義を奨励し他者を排除する内容を削除し、寛容と多元主義の勧奨内容を導入することが、求められる。アラブメディアは、現代にふさわしい教育改革の必要性を多々呼びかけてきた。著名人やコメンテータ達は、学校のカリキュラムに見られる過激主義と煽動に抗議し、学校がISやアルカイダのようなサラフィ・ジハード運動に同情的な世代をつくりだしている、と主張している。

2016/17年度の学期開始に先立って、いくつかの国で、期待のできるような動きがみられた。つまり、学校カリキュラムの抜本的変更に前向きの姿勢があった。モロッコのモハメド6世国王は、カリキュラムの見直しを命じ、その結果、コーラン記載のジハード関連章句を教科書から削除することが決まった。ヨルダン教育省は、教科書の修正をおこなった。ジハード章句の削除、イスラムのモチーフの入れ換え、女性の姿の入れ換え(ヒジャブ姿からもっと世俗的な姿へ)が含まれる。

このような変更は、保守派とイスラム諸党から、猛烈な反対にさらされた。彼等は、このような変更は、西側の要求に屈しただけの話であり。国家の民族的宗教的アイデンティティを傷つけるだけと受けとめた。モロッコでは、この反対で削除がくつがえされることはなかった。しかしながらヨルダンでは、保守派の圧力でつくられた委員会が、いくつか訂正のうえ、新しい教科書を認めた。ユダヤの部族バヌ・ナディルとバヌ・カイヌカとの戦争など、イスラム初期の戦いについて、追加したのである※1。

モロッコとヨルダンを除けば、アラブ諸国の大半は、長年躊躇し声も小さかった。2016年のベイルート会議の閉会宣言に、それが反映している。変更は「皮相で体裁をつくろった」だけとし、「平等の市民権に対する認識教育がなってない」と主張したのである。更に、学校は「過激主義と排外主義の文化に対する抵抗力」を持つ世代形成ができなかった、と指摘した※2。

例えばエジプトでは、アル・シシ大統領がカリキュラムの再検討を指示したにも拘わらず、散発的な変更しか行われていない。例えば、過激主義を奨励する話がいくつか削られる程度である。今年になって初めて教育省が、カリキュラムの全面的見直しの意図を発表した。サウジアラビアは、ムスリム同胞団の創立者と幹部の著書の多くが排除されたにも拘わらず、教育省は、リベラリズムと無神論が国家の安全保障上ナンバーTの敵であると発表している。過激イスラムより上である。

本報告は、過去2年間にアラブの新聞に掲載された報告と記事を紹介し、アラブ諸国の学校カリキュラムの状況を検討するものである。

我々のカリキュラムは時代遅れ、改革が必要―アラブ諸紙の主張

前述のようにアラブ世界では、学校カリキュラムに対し厳しい批判がある。特にテロリズムと過激主義を奨励する点に批判がある。批判と共に、カリキュラムの根本的改革の必要を強調する声がある。

ヨルダン紙Al-Dustour会長ダオウディア(Muhammad Daoudia)は、ヨルダンの元閣僚であるが、次のように書いた。

「我々は17世紀にいる。我々の敵によれば、我々はあの暗い時代と同じ時にいるのだ…我々の弱点は、自由と名誉を獲得し、我々の地我々の聖所を解放しようにも、中世のどん底からはいあがることができないことにある。道ははっきりしている。教育改革が必要である。現代の科学における進歩発展に合わせなければならない。科学教育は…学校によっては礼拝の授業に代えられる。これが現状だ」。

ダオウディアによると、アラブ世界は立派な調査センターをもっているが、勧告を履行しない。更に質の高い立派な大学は、富裕な湾岸に存在し、「シリア、イラク、マグレブ、スーダン、イエメンのような住民が後進性と迷信から脱去する必要のある地域には、存在しない。これは、アラブ民族が昏迷状態で生き続けることを意味」する。「我々は教育改革とカリキュラムの改善発展を必要とする。(我々は)芸術、哲学、現代科学を教育し、創造性、批判的科学的思考、対話の方法を(発展させ)、他者を受入れる教育をしなければならない…」とダオウディアは強調した※3。

2017年5月リヤドで開催されたアラブ・イスラム・アメリカ対テロ首脳会議には、トランプ大統領、サウジのサルマン国王が出席した。この会議の後、クウェート大の法学部講師アル・イッサ博士(Shamlan Yusuf Al-‘Issa)が次のように書いた。

「求められるゴール(テロとの戦い)を達成するため、我々は具体的にどんな行動をとったであろうか、もっと正確に言えば、我々は宗教に関する学校カリキュラムを見直したのであろうか」、「いくつかの湾岸諸国では、宗教カリキュラムは擬古体で狂信的言葉で書かれている。現代の我々の生活の現実とは相容れない内容であり、現代世界の教育にふさわしくない。湾岸諸国の主たる味方である西側に対し、あからさまな憎悪を煽っている。カリキュラムにみられる過激主義が、いくつかの国で過激宗教組織を生みだし、この国々を含む諸国で攻撃志願者をリクルートする結果を招いている…他者を否定し、ジハードを呼びかけ、アッラーのために死ぬとか、イスラムの宗教的訓戒に反対する者とは戦えといった言語、女性不信の言語をカリキュラムに含めているのは、論理的に正しいことなのだろうか。

湾岸地域における今日の宗教論議は、アラブ及び国際環境の中の変化を受入れることができない。学生がツァイトガイスト(時代精神)を受入れ、科学に関心を抱くようなことをしていない。同じようにムスリムが他者を憎悪し、不信心の徒などと糾弾することなく、他者と科学や文芸で競い合えるか。現段階では全く不明である。

問題は、低迷と宗教的過激主義から脱却するため、現状をよしとする聖職者と教師の首に、誰が拍車をつけられるかである…」※4。

モロッコの評論家ナシード(Said Nasheed)は、アラブがテロとの戦いに負けている理由のひとつが、政権の消極性であると指摘する。カリキュラム変更の勇気に欠けるという。ロンドン発行のアラブ紙Al-Arabに、次のように書いている。

「これは疑う余地がない。我々はテロとの戦いで敗北寸前のところにある。戦う前から負けることが判っていた…もっと悪い。我々は実際に立上った時、全く逆のことをやっているのである。我々がカリキュラム特に宗教カリキュラムの改定をしようとする度に、過激派が怒声を浴びせ威嚇する。すると我々は恐怖に身を震わせ、古いものよりもっと悪いカリキュラムをつくるのである。内紛を避けるためである…」※5。

カリキュラムからコーランのジハード章句削除を命じたモロッコ国王

モロッコでは、過激思想とISに対する同情が急速にひろがっている―1,500人を越えるモロッコの若者がこの組織に加わっている。モハメド6世国王は、教育及び宗教相に、公立学校だけでなくすべての学校の全教育システムの徹底的調査を命じた。モロッコの新聞は、国王が「公立私立学校及び伝統的な教育機関における、イスラム学習カリキュラムの再検討を命じ、穏健なイスラムの価値観をベースとする教育の重要性を大いに強調した。更に国王は、スンニ派イスラム、中道(ワサティヤ)をいくマリキ派、穏健、寛容、すべての文化との共存を強調した」と報じた。国王は、教育システムを検討する2016年2月6日開催の政府協議に参加している※6。

国王の命令は、内外の圧力の結果である。モロッコのメディアによると、イスラムのカリキュラムが過激傾向を助長し、テロリズムを奨励するという問題が、次第にとりあげるようになった※7。2015年11月のパリ攻撃の後、メンバーに知識人や市民運動家を含むバイト・アルヒクマ組織が、「我々を脅威におとしいれる恐れのある危険を理解し…イスラム教の学習を含め、イスラムやほかの学校に対する間違った理解の仕方を与えるカリキュラムの排除」を政府に呼びかけた※8。

モロッコのニュースウェブサイトAlyaoum24.comの編集長ブーアシリン(Taoufik Bouachrine)も、モロッコのカリキュラムを批判する。8歳になる自分の娘の宿題(イスラム学習)に、「どの宗教書が間違っているか」という質問で、詩篇、トーラー、福音書、コーランから選ばせる内容があった。編集長は「8歳の子供に宗教を比較させる必要があるのか。さまざまな宗教の歴史にみられる複雑な問題を簡単に割切ってよいのか」と疑問を呈し、問題はカリキュラムだけではない。湾岸の宗教テレビチャンネル、数々の説教、ファトワ、そしてYouTubeのプログラムが問題である、と指摘する※9。

国王の命令がでた後、2016/17年度の学期に先立って、教育省は、カリキュラムから、ジハードと戦闘に関するコーランの章句及び章(第48章を含む)を排除し、寛容と自由を強調する内容に変えた※10。いくつかの報道によると、教育省はカリキュラムからイスラム学習を完全に排除し、宗教学習≠ノ変える意図であるとした。しかし、この報道は教育省が否定した※11。

たといこれによって喜ぶものがいたとしても、この動きは、イスラム及び非イスラム双方から批判された。問題の根は、コーランの特定章句や章をカリキュラムから排除するだけで解決するわけではなく、その内容を生徒に説明し解釈してやらなければならない。ソーシャルメディア、モスクそしてメディアで伝えられる意図的解釈や説明に対応できる手段を持たせることが、大切である。

モロッコの与党正義発展党は性格上イスラムであるが、党のアル・アイニン(Amina Maa Al-Ainine)は、次のように主張する。

「ジハードやユダヤ人等の取扱いに関するコーランの章句を無視し、生徒にこれを隠しさえすれば、テロリストの思想のルーツを駆逐できると考えるのは、皮相である。生徒はコーランをいつでも読めるし耳にもする。我々が生徒と一緒にコーランを読み正しく説明しなければ、明日にでも、テレビチャンネル、ウェブサイトその他、破壊的思想をたたきこむさまざまなものの餌食になってしまう」※12。

宗教教材の修整は“カリキュラムの世俗化”―ヨルダンで起きた抗議

ヨルダンでは、教育システムのオーバホールと、死を讃美し過激主義と他者憎悪を奨励する教科書のカリキュラムの見直し作業を、2015年に大半終えた、と発表があった。しかし、どこをどう変えたのかは明らかにしていない。当時ヨルダンの教育相であったティネイバト(Mohammad Thneibat)は、アラブ、イスラム、歴史そして市民問題のカリキュラムが見直されたとし、新しいカリキュラムに、ほかの宗教、ムスリム・キリスト教徒関係について記述が加えられたと言った※14。

ソーシァルメディアを含むメディアの報道によると、カリキュラムのフォームと内容が見直された。例えば、コーランの章句を含む宗教々科書は排除され、或いは技術又は文芸の教科書に変えられた。ヨルダンの宗教人口については、従来のカリキュラムでは、ムスリムだけの国とされていたが、今度初めてヨルダンのキリスト教徒社会の存在が認められた。コーランの章句とハディースの暗記も削除された。更に伝統的なムスリムの名前は、現代風の名前に変えられ、モスクと宗教上の容姿(男性が髭をのばし、女性がベールをつけるなど)も排除された※15。

写真1


6学年社会の教科書「共存」と題する章では、モスクだけの写真(左)がモスクと教会の写真(右)に入れ換えられた(Source: sawaleif.com, September 4, 2016)

写真2


1学年の教科書。ヒジャブ姿の女性教師の写真(左)がベールなしの教師の写真(右)に入れ換えられた(Source: sawaleif.com, September 4, 2016)

ヨルダンでは、カリキュラム変更が、保守層、教師及び両親の間に激しい反撥を起した。教師組合は、その多くは、ムスリム同胞団のメンバーで、改革前からほかの理由で教育相とは緊張関係にあったが、カリキュラム改革を忍耐の限界を越えた≠ニ見なし、教育相の解任を求めた※16。組合が出した声明は、改革を災難と呼び、伝統的な教科書を内容空疎な西側の教科書≠ノ変え、我々の民族的カリキュラムを傷つけた≠ニ主張。教育相と改革チームを非難した。教師組合は、「アラブ/ムスリム・ヨルダン国民はあらゆる方向から危険にさらされている。その一つの世代を傷つける政治的指示を受入れ、それに屈従するのは、最も屈辱的なことである。精神力をつけ、自信を与えてくれるものが奪われたのである」とも述べている※17。

教師と生徒は全国で改革反対のデモを展開し、カリキュラムの世俗化≠ノ抗議した※18。ヨルダンのニュースウェブサイトは、両親達が改革に不満で、「シャリアをカリキュラムで過小評価し、生徒から遠ざけるのが、改革といえるのか」と主張した旨伝えている※19。

教育相は、抗議の波を静めようとして、問題の見直しを委員会に伝えた※20。アル・ムルキ首相(Hani Al-Mulki)もこの問題について、「カリキュラム変更の主旨は、民族及びイスラムの価値観を保持しつつ、内容を発展させることにあるが、この価値観を傷つけることが証明されれば、政府は撤回する」と述べた。2016年11月14日、ヨルダンのメディアは、教育相を議長とする教育評議会が、新しい教科書の評価委員会の結論を受入れたと報じた。その教科書には、議論を呼んでいたイスラム及びアラブ学習が含まれる。委員会は、「学習内容が教育省の教育哲学とイスラムの価値観」に合致しているとしたが、補筆を勧告した。学習用教材として、適当なコーランの章句の追加、ユダヤ人部族バヌ・ナディルとバヌ・カイヌカとの戦いを含むイスラム初期の戦争も追加するのである※22。

このような変更にも拘わらず、ヨルダン王国の保守層は抗議を続け、2014年のカリキュラムに戻るように要求している。記者会見で、ムスリム同胞団の議員団と同胞団のイスラム行動フロントは、カリキュラムの変更は「外国の指示に屈することである」と主張、その支持はヨルダンとイスラム国家としてのアイデンティティ破壊を狙ったものである、と主張した。イスラム行動フロントの幹部は、この変更を元に戻すべく教師達に戦えと発破をかけた※23。

問題の根源に触れぬ微調整―エジプト

エジプトのアル・シシ大統領率いる政権は、宗教論議を再開し、過激主義を叩く呼びかけの一環として、カリキュラム見直しの旗を掲げた。しかし、大きい抵抗に直面し、たちまち行き詰まった。主として宗教団体であるが、市中の住民も反対した。その住民の大多数は、伝統的なのである。これまで沢山のカリキュラム再検討委員会がつくられた。アル・シシ自身が率いたものもいくつかあるが、どれも結果をだしていない。

2017年8月、エジプトの教育省が、「カリキュラムの抜本的見直しと発展、更新を目的とする総合計画」の樹立意図を発表した。教育省のカリキュラム開発センター長シャビラ博士(Nawwal Shalabi)によると、今回、カリキュラム決定のガイドラインがつくられつつある由である※24。

エジプトの教育に何が必要かという大所高所からガイドラインをつくるというので、今回のアプローチは、取組方が違う。以前は、特定個所を削除するだけであった。例えば2015年3月、教育省は、「全学年レベルに対するアラビア語のカリキュラムの修正を枠組として」、暴力と過激主義を教唆する話、そして政治或いは宗教的内容を削除するとされた。サラーフ・アッディーンやウクバ・ビン・ナファといったイスラムの偉大な軍事指導者の征服話もその中に入る※25。

2016/17年の学期に先立って、教育省は3学年のアラビア語カリキュラムから「鷹の末路」という話を削除するように命じた。鷹と鳥達の戦いで、鳥達は郷土を愛する者を象徴し、鷹はその敵で、激しい戦いの末、鳥達が勝利する。そして、命乞いする鷹を無視して、焼き殺す※26。「子供達に、人間を生きながら焼き、報復する考え」を植えつけるとして、削除された※27。

抜本的な点検を避け、カリキュラムの部分的削除するアプローチは、大変批判された。殆んどは非難である。このやり方では、百年河清を待つ如しという声があった。例えば、アラブ首長国連邦系のロンドン発行紙Al-Arabは「アナクロニズムである。(生徒に)タクフィル(個人を不信人者と決めつける行為)を勧めるも」と書いた。つまり、依然としてほかのムスリムを異端視する。更にこの記事は、たとい「エジプト政府が、さまざまな状況下で宗教議論の再開願望を表明しても、ジハード、奴隷、タクフィル、犠牲(いけにえ)を正当化する学校カリキュラムを問題視しない。このような内容は公立学校とアズハルでも教えられているのである…」と指摘した。

この記事によると、カリキュラムには、過激主義を奨励し、暴力と他者憎悪を助長する教科と話が含まれている。学習教材の一部について相当の抗議が効を奏して、内部がいくらか変えられた。しかし、カリキュラムの多くは、奴隷、ズィンミー(保護民)、ジズヤ(人頭税)など非ムスリムに対する扱いや、イスラムを放棄したムスリムに対する死刑などを含めている※28。

カリキュラムに含めたテキストで批判を呼んだ例のひとつが、小説「おおムスリムよ」(Wa-Islama)である。第10学年のアラビア語学習の一部で、中世エジプトのスルタン(Saif Al-Din Qutuz)と十字軍との戦いである。スルタンの甥がモンゴルのジンギスカンの息子を捕えて首をはねるなど、暴力内容がいろいろある。エジプトで育ったインドネシア人(’Ali Ahmad Bakhtiar)が書いた小説。初版は1945年で教育省の賞も貰っており、1966年以来エジプトのカリキュラムに含まれている。劇や映画にもなっている。

2017年1月、エジプトのムニル国会議員(Mona Munir)が、この小説をカリキュラムにある過激主義テキスト例として指摘し、教育省に学習教材の変更、開発を求めた。教育相に対する質問で、議員は次のように書いている。

「これは、IS(イスラム国)の虐殺話ではなく、エジプトの第10学年生徒(のカリキュラムに)含まれている話である。テロリズムと戦う国として世界に宣明している国の教材なのである…大人は自分の好きなものを読めるだろう。しかし学校のカリキュラムは道理を教え、郷土に対する帰属意識を涵養しなければならない。それがどうであろう。少年が人々の首をはね、その頭蓋骨、生首をもてあそぶ。首が空中を飛び血しぶきがあがっても、平然としている少年に学べというのが、カリキュラムの主旨である。生徒が試験で、話の主旨と違う解答をすれば零点となる…。私達の間で暴力と過激主義が荒れ狂っている今日、エジプトのカリキュラムはこれに対処できるように変更しなければならない…」。ムニルは、別の機会に、「我々は技術と情報革命の時代に生きている。子供達に何故剣や槍の話を教えるのか…」と言った※30。

エジプト紙Al-Watanコラムニストであるアル・モンタッサー(Khaled Al-Montasser)は、この話について同じ主旨のことを述べ、「これは、(アルカイダの指導者・故)ザルカウィによって作られた脚本ではないし、ISの虐殺の話ではない。テロリズムと戦う国と世界に宣明しているエジプトが、第10学年カリキュラム用として承認した話である…子供達の頭と心に叩きこむ必要がある英雄的行為というわけである…。

私は、アル・シシ大統領に質問がある。IS的(教育)大臣が、エジプトの学童数百万を(IS指導者)バグダディの後継者として養成中というのに、宗教論議の再開とは、一体どういうことか…我々の公立学校とアズハル系学校は、IS類似の世代を養成しているのである。このような状況で、文明教化、進歩、思考の革新が出来るのであろうか…子供達が血に心を奪われた時、どの国であっても進歩発展はない…」と主張した※31。

写真3


2016/17学期の第10学年用教材「おおムスリムよ」・エジプト教育省版(Source: elearning1.moe.gov.eg)

ムニルが「おおムスリムよ」を教材から削除するように求めたところ、議会の教育委員会で激論となった。議員のなかには、この本は何年もカリキュラムに含まれており、テロや過激主義を奨励したことはない、と主張した者もいる。ヒジャジ議員(Ibrahim Hijazi)は、「私はこの本を学んだが、テロリストや過激派にはならなかった。ほかにもそのような人が沢山いる…」と主張した※32。

教育省のアラブ学習顧問シャラビ(Ahmad Shalabi)は、「政府が委員会をつくった。カリキュラムに含める教材を決めるのである。この小説は全章削除が決まった。ほかに暴力を含むもの、誤解される可能性があるものも、然りである」と言った※33。それにも拘わらず、エジプトの教科書に関するオンラインTa`limakウェブサイトは、「今年、この小説には全然手が加えられなかった」と書いた。この小説はウェブサイトに掲載された。教育省のサイトからとった由で、2016/17年度学期の教材リストにのっており、議論のまとになった暴力場面もそのままという※34。

エジプトの教育省幹部アル・ハビリ(Mahmoud Al-Khabiri)は、すべての地区の教育管理局々長に、ムスリム同胞団とイスラム革命に関する文章、本をすべて教材から削除するように指示した。暴力の教唆個所も然りという。この指示を破る者は罰されるとしたが※35、カリキュラム改革というよりは、ムスリム同胞団とイランに対する政治的敵意に起因していると考えられる。

宗教過激主義、憎悪のカリキュラム排除の呼びかけ―サウジアラビア

サウジアラビアでは、IS支持者によるテロ攻撃が何回か起きた後、サウジの議員とジャーナリストが、カリキュラムの見直しを呼びかけた。王国でIS支持が増えているのは、一部にはカリキュラムに原因があるとみている。シューラ評議会安全保障委員会のアル・サドン委員長(`Abdallah `Abd Al-Karim Al-Sa`doun)は、「正しいこと間違っていることを識別できる批判的思考能力が必要で、その能力を有する穏健且つバランスのとれた人間の養成」のため、新しいカリキュラムをつくるよう、教育省に求めた※36。シューラ評議会メンバーのアル・ゲィツ(`Issa Al-Gheith)は、「すべての煽動過激派の学校、大学、説教壇、モスク、ソーシァルメディア、そして特に、生徒の心を意のままに形成する手段を過激派に与えるカリキュラム」を排除せよと呼びかけた※37。

サウジの政府系新聞では、数名のコラムニストが同じ主旨の話を書いた。Al-Watan紙でアルシュライミ(Ali Al-Shuraimi)は、サウジの学校のカリキュラムが、他者に対する憎悪を吹きこんでいるとし、「我々が抱える問題の主たる原因のひとつは、我々が子供達に与える教育法と質である…子供達は、試験に通るため、教材をそっくりまねるだけである。我々の子供達は、沢山の疑問を避けて成長する。科学と哲学の課題は、カリキュラムで排除され、沢山の禁止で制限されており、子供達はこの分野の討議を恐れている。(過激主義の)問題が発生する原因は多々あり、カリキュラムはそのひとつにすぎない。しかし、それを修正し変更することで、人種主義と過激主義のレベルを低めることはできる。選択の余地はない。宗教カリキュラムを再検討し、宗教的過激主義…そして異なる宗教或いは宗派に対する憎悪を排除しなければならない。我々はジハード(聖戦)の概念を再検討しなければならない。武力の戦いは、国と国民に対する攻撃に限定することだ」と主張。更に、教材には、ほかの宗教の紹介、人種の価値観と寛容そして倫理観をベースとした本を含めるべきで、「国内の事情に対処し、現代の進歩発展に遅れをとらず、更に過激主義と殺しの思想を寄せつけぬために、カリキュラムの再検討と開発が課題である」と結んだ※38。

同じAl-Watan紙ではアル・アリ(`Abir Al-`Ali)が、教育省に「カリキュラムにアッラーのためのジハード≠ニいう文言が何回でてくるか算えて欲しい。そして、何故そんなに沢山あるのか、理由を説明して欲しい。国が政治的野望を抱き不和反目を増長している者と戦い、周辺諸国では血みどろの紛争が続いている時に、何故そのような教材を使うのか。我々は新しい教育方式を導入しなければならない。死を讃美し、他者に対する憎悪を助長するのではなく、合理的思考とベースにしたものにすべきである。市民権の概念を植えつけ、故国の利害を教え、まず守らなければならぬのは故国であることを、理解させなければならない…と提唱した※39。

現代的認識は、国家の安全保障上第一の敵―サウジ教育省の見解

サウジ教育省は、これまでさまざまな対策をとってきたが、過激主義と戦うための、明確且つ統一された総合政策はまだ策定されていない。2015年12月、教育省は、学校図書館及び教育センターから、ムスリム同胞団の創始者と主たるイデオログが書いた本の排除を再度指示した。サイード・タッタブ、ハサン・アル・バンナそしてカラダウィの著書を含む※40。9/11事件の後2002年に類似の指示がだされたが、全面実施には至らなかった。その時の指示は、対ムスリム同胞団闘争上の政治的要請が背景にあった。

実際のところ、教育省がとった対策は、カリキュラムの穏健化の試みを無視しているように思われる。2016年に教育省が導入したプロジェクトは、「国の価値観を固め、過激思想破壊的思考に対処し、過激行動に走る学生を探知し対処する」ことを目的とする一方、サウジアラビアの国家安全保障に対する最大の脅威は、「現代的認識、欧米化、無神論、リベラリズム、世俗主義」であるとし、タクフィル過激派集団(ISやアルカイダなど)と党派及び宗派の脅威は、それに比べると小さいとした※42。更に、公立学校における教育方法も殆んど変っていないようである。2015年7月には、教育相アル・ダキル(Azzam Al-Dakhil)が、公立学校にコーラン丸暗記授業を導入するとの決定を発表し、リベラル派が「これでサウジの教育は何十年も後退し、科学より宗教を上におく過激世代をつくりだす」と猛反撥した※43。

カリキュラム見直しを避けるクウェートの教育機関

クウェートも、カリキュラムの基本的改変をやっていないように思われる。政府は、この問題を真剣に扱わず、カリキュラムは寛容と他者に対する尊敬をベースにすべきと、漠然且つ一般的な話をするにとどまっているようである※44。2016年6月、クウェート教育省イスラム教育の専門家監督官アル・メスバー(Jassim Al-Mesbah)が,教育省は第2学年から第6学年までのイスラム・カリキュラムの改定を終了し、次年度から上級学年のカリキュラム改定に着手する、と発表した。翌月、アル・イッサ教育相(Badr Al-‘Issa)が、2016/17年度学期から中等学校の新カリキュラム導入を命じた。「寛容、他者の尊敬、過激主義の根絶をベースとする」内容という。教育次官アル・ハルビ(Sa`id Al-Harbi)は、「ゴールは生徒にレベルの高い基本的スキルを教えることにある。クウェート社会の価値観を身につけ、それに従い、他者と人権そして自由を尊重し、平和と寛容の価値観を大切にする、良き市民の育成が狙いである」と言った※46。

この変更の本質が何か、まだ不明である。そもそも教育省の役人達が真剣に取り組んでいるのかどうかが、はっきりしない。2016年7月、国会議員の質問に答えて、アル・イッサ教育相は「イスラム学習カリキュラムは、過激主義奨励とは何の関係もない。逆である。このトピックに関する科目は、宗教における寛容とヒューマニズムの価値観を促進し、平和、寛容、多元主義、共存、他者にたいする尊敬を呼びかけている」と言った※47。教育相は別の機会に、過激主義が意識にあり或いは現実に行使される中東及びその他の地域で、カリキュラム改定は避けられないとしながらも、「しかし、クウェート及び湾岸の我々は、人権と尊厳の政策を実施し、我々の学校ではこれに従って子供を育てている。子供達がメディアで見るのは、学校で学んでいることと矛盾するということである」と言った※48。

カリキュラムの主な変更の実施に関する不満足な状態は、アル・メスバーの反応にある。アラブ数ヶ国においてアメリカ大使館が学校のイスラム・カリキュラムの全体的枠組みを決めたとする報道に関して質問され、アル・メスバーは「我々は自身で見たわけではない。しかし、いくつかのイスラム国家では、私が協定批准について読んだところによれば、本当かも知れない。一般的に言えば、グローバリゼーションが存在し、それが支配的である。それは、イデオロギー、文化、政治及び軍事上の押しつけを意味する…これは新しい植民地主義である…権威を押しつける行動がある…(アラブ及びムスリム諸国のなかには)世俗とリベラルを奉じる者がいて、イスラムを望んでいない」と言った※49。

予期されたように、これが国で議論を呼んだ。リベラル派クウェート人ジャーナリストのアル・サッラフ(Ahmad Al-Sarraf)は、クウェート紙Al-Qabasで、カリキュラム見直しを決めたモロッコを称讃し、クウェートが同じことをやるのはいつであろうか、と疑問を呈した。「我々の番がくるのはいつか」と題し、次のように書いた。

「我々のカリキュラムは、クウェートの教育相が主張するように、テロリズム、殺害、ジハードの勧奨と、他者殺人が許されるといったことに関係のない、潔白なものであろうか。答ははっきり言ってノーである。教科書も(現場の)人間も潔白ではない。政治化した教師は、子供達の認識を形成するうえで危険な存在である。不思議なことに、宗教省はモスクの説教師達に、特定のトピックを論じてはいけないとか、政治に関わるなと指示したが、教師には警告が一切だされていない。(たとい)教師連合が随分前から親ムスリム同胞団思想の拠点とみなされていてもである…数日前、学生達が治安部隊と対峙し、隊員とスマートフォンのカメラの前で、IS(イスラム国)の旗を振り、その国家を歌った…このように振舞えるのは、彼等が自分達は最強と知って、或いは考えているからである…」※50。

クウェート大学教授アル・ハッティブ博士(Ibtihal Al-Khatib)は、リベラルな世俗派の活動家であるが、学校での宗教々育を廃止するように求め、宗教学習は「ほかの宗教の権利抑圧」にあたるとし、中立的な教育学習の導入を求めた。彼女によると、「クウェートの学校は、イスラムから離脱する者に対する死刑を、今でも教えている。我々は、多くの人が宗教を変えるオープンな社会に住んでいるにも拘わらず、学校ではそう教える…更に、女性観も間違っている…暴力を教唆煽動する粗暴な教材もある…」と述べた※51。

*N・モーゼスはMEMRIの研究員

[1] Hawajordan.net, November 14, 2016. バヌ・ナディルとバヌ・カイヌカはアルマデイナに住むユダヤ人部族。ムスリムの伝統によると、預言者ムハンマドを裏切り、本人と交わした協定を破り、そのためムハンマドが追放したという。

[2] Al-Ghad (Jordan), March 7, 2016.

[3] Al-Dustour (Jordan), August 16, 2017.

[4] Al-Ittihad (UAE), July 2, 2017.

[5] Al-Arab (London), December 27, 2016.

[6] Maghrebalaan.com, February 7, 2016.

[7] Maghrebalaan.com, February 7, 2016.

[8] Lakome2.com, November 19, 2015.

[9] Alyaoum24.com, March 1, 2016.

[10] Hespress.com, July 8, 2016.

[11] Mamalakapress.com, July 1, 2016.

[12] Kifache.com, July 8, 2016.

[13] 次を参照:MEMRI Inquiry & Analysis No. 1211, In Light Of Jordanians Joining Terrorist Organizations, Calls In Jordan To Reform Curricula, December 14, 2015.

[14] Al-Ghad (Jordan), August 24, 2016.

[15] Al-Ghad (Jordan), August 24, 2016; arabi21.com, August 19, 2016; sawaleif.com, September 4, 2016; Al-Sabil (Jordan), September 18, 2016, October 5, 2016, February 4, 2017.

[16] Al-Sabil (Jordan), September 17, 2016.

[17] Al-Sabil (Jordan), September 18, 2016.

[18] Al-Ghad (Jordan), September 30, 2016; Al-Quds Al-Arabi (London), October 1, 14, 2016; Al-Sabil (Jordan), October 6, 2016.

[19] Sawaleif.com, September 4, 2016.

[20] Al-Ghad (Jordan), September 11, 2016; Al-Sabil (Jordan), October 1, 2016.

[21] Al-Ghad (Jordan), October 9, 2016.

[22] Hawajordan.net, November 14, 2016.

[23] Al-Sabil (Jordan), February 4, 2017.

[24] Elwatannews.com, August 25, 2017.

[25] Al-Masri Al-Yawm (Egypt), March 18, 2015. サラーフ・アッディーン(1137-1193)はアッユブ朝の開祖。エジプトとシリアを支配し88年間支配下した十字軍の手からエルサレムを奪った。ウクバ・ビン・ナファ(622-683)はウマイヤド朝下の北アフリカの知事。ビザンチン帝国の北西領域を相当占領 した。

[26] Mwlana.com, February 25, 2017.

[27] Dotmsr.com, March 1, 2017.

[28] Alarab.co.uk, September 27, 2016.

[29] Moheet.com, January 29, 2017.

[30] Anbaaaldelta.com, February 10, 2017.

[31] Al-Watan (Egypt), November 19, 2016.

[32] Al-Yawm Al-Sabi' (Egypt), January 29, 2017.

[33] Al-Yawm Al-Sabi' (Egypt, January 29, 2017.

[34] Ta3lmek.com.

[35] Masralarabia.com October 12, 2016.

[36] 'Okaz (Saudi Arabia), June 25, 2016.

[37] Al-Watan (Saudi Arabia), June 25, 2016.

[38] Al-Watan (Saudi Arabia), July 5, 2016.

[39] Al-Watan (Saudi Arabia), June 28, 2016.

[40] Alaraby.co.uk, December 12, 2015.

[41] Al-Hayat (London), April 28, 2014.

[42] Makkah (Saudi Arabia), October 28, 2016. 本プロジェクトに関しては次を参照:MEMRI Inquiry and Analysis No. 1288, Saudi Education Ministry Project To 'Inoculate' Schoolchildren Against Liberalism And Secularism Causes Furor In The Country, December 13, 2016.

[43] Arabi21.com, December 2, 2015.

[44] クゥエートにおける2004年のカリキュラム論争は次を参照:MEMRI Inquiry & Analysis No. 224, The Public Debate on Kuwait's School Curricula: To Teach or Not to Teach Jihad, June 1, 2005.

[45] Alanba.com.kw, June 16, 2016.

[46] Kuna.net.kw, July 4, 2016.

[47] Kna.kw, July 12, 2016.

[48] Gulf-24.com, September 19, 2016.

[49] Al-Rai (Kuwait), September 4, 2016.

[50] Al-Qabas (Kuwait), July 16, 2016.

[51] Alshahedkw.com, September 24, 2016.


 

 

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