メムリ(MEMRI) - 中東報道研究機関 調査および分析シリーズ
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THE MIDDLE EAST MEDIA RESEARCH INSTITUTE

調査および分析シリーズ


 
Inquiry and Analysis Series No 1359 Nov/23/2017

ヨルダン国境にせまる親イラン武装勢力
―高まるヨルダンの懸念―

Z・ハレル*

この数ヶ月南シリアでシリア政権とその同盟者達が成果をあげ、これがヨルダンに大きい懸念材料になりつつある。勢いをました親イラン武装勢力が、シリア・ヨルダン国境に近付いてきたからである。ヨルダンのアブダッラーU世国王は、今年9月、その懸念を表明し、「我々は、南シリアにおける状況展開に重大な関心を抱いており、テロ組織と外国の民兵隊の接近に伴い、北部国境域の防衛が最優先事項となった…我々は、IS(イスラム国)或いは、シリアで戦闘中の外国諸部隊のいずれを問わず、国境域の緊張エスカレートに対しては、毅然として対応する」と言った※1。この地域におけるイランの勢力拡大とそれに対するヨルダンの懸念は、今に始まったことではない。アブダッラー国王は、早くも2004年に、シーア派新月旗―イランからイラク、シリアそしてレバノンへ伸びてくる領土的連続体―の出現≠ノついて、警鐘を鳴らしていた。

最近ヨルダンとアメリカは、ヨルダン国境域における武装勢力の地歩固めを阻止するため、シリアの同盟国ロシアと本腰で話合いを続けている。ロシア、イランそしてトルコの後押しによるアスタナ協議で、緊張緩和地帯が形成されたが、そのような地帯の形成が話合いの目的であった。2017年7月、ヨルダン、アメリカそしてロシアの後援の下アンマンで、南シリアにおける緊急緩和地帯の設定諸原則に関して、この3ヶ国がサインしたのである。

しかしながら、この諸原則に関する覚書で、ヨルダンの恐怖心が抑えられたわけではないようである。覚書の詳細は明らかにされていないが※2、調印の後この調印3ヶ国の間に極めて大きい意見の不一致が浮上してきたようである。原因は、親イラン武装勢力の存在である。ヨルダン紙Al-Ghadは、「新しい原則覚書で、シリア諸派(シリア政権と南シリアに存在する反対派)は(双方が)自己のコントロール下にある外国組織と民兵隊をその支配域から排除することを約束した」と報じた※3。しかし、ラブロフ外相を初めとするロシア側は、イラン系諸勢力のシリア撤収を求める文書にロシアが署名したことはない、と言明している※4。

更にここ数日アラブ及び外国メディアは、イランが南シリアにおけるプレゼンス固めに奔走している、と報じている。この一連の報道によると、ヨルダン国境から30q離れたイズラ地域に、第313旅団が編成進出した。兵隊はシリア人であるが、イランの革命防衛隊(IRGC)に直属する※5。イランが、ダマスカスの南13qにあるアル・キスワ地域に軍基地を設定したとの報道もある※6。

この一連の状況展開で、ヨルダン各紙は、南シリアにおけるイランの軍事プレゼンスに懸念を表明し、軍事手段で阻止せよと求める記事もだした。なかには、原則覚書とそれが設定する緊張緩和地帯を信頼するな、と主張する記事もある。政府系新聞Al-Rai掲載記事は、この地域におけるイランの勢力拡大を阻止しないとして、アメリカを厳しく批判した。

次に紹介するのは、この一連の記事内容である。

写真@


ヨルダン・シリア国境地帯(image: Al-Ghad, Jordan, November 11, 2017)

アメリカはイランの勢力拡大を傍観している―Al-Rai

Al-Raiの論説委員会先任論説員マルカウィ(Faisal Malkawi)は、この地域におけるイランの勢力拡大即ちイラク、シリアそしてレバノンまでイランから地中海へ至る地続きの領土帯の形成に、警鐘をならし、次のように書いた。

「ドナルド・トランプを初めとするアメリカは、イランに対して、その核開発計画と地域介入に対して厳しい戦略を以て対応すると広言しながら、現実には、イランの拡張に対して何もしていない。テヘランからベイルートへ至る陸上ルートの完成が近いことを考えれば、状況は極めて深刻である。このルートは、アメリカの勢力圏を貫通し、北東シリアの

米軍基地の近くを通っている。アメリカとその友邦そしてシリアの民主勢力も、ディル・アル・ゾルとアル・タナフの東に基地と部隊を擁している。しかるに(僅か)数キロ離れたところ、照準線内に、革命防衛隊(IRGC)とヒズボラ民兵隊が(最近)シリアの都市アル・ブカマルに進出し、そこで住民を動員して進駐祝賀行事をやった―シリア・イラク国境におけるイランのプレゼンスは、その陸上ルートを完成し、それを軍事的に戦略的に守ることを可能にする。つまり、影響及び介入圏の形成である。将来どうなろうとも、これが睨みをきかした存在になることは間違いない…」※7。

民兵の国境接近を許してはならない。武力を以てでも阻止せよ―前情報相アル・カッラブ

政府系新聞Al-Raiのコラムで、前情報相アル・カッラブ(Saleh Al-Qallab)は、南シリアに緊張緩和地帯を形成する覚書に調印したからといって安心してはならないと警告、イラン諸部隊のシリア撤収を引続き要求し、必要とあれば、武力に訴えてでも、要求を通すべきと主張、次のように書いた。

「イランの最高指導者のアドバイザーであるベラヤチ(Ali Akbar Velayati)は、アレッポ所在のイラン軍とイラン系民兵隊を訪れ、挑戦的な言辞を吐いた。更に、シリアを調査している人々は、イランがダマスカスの南に軍事基地をつくったことを明らかにした。この基地は、イスラエルが占領中のシリアゴラン高原よりもヨルダンに近く、こちらを向いている。このような状況を併せ考えると、南西シリアに緊張緩和地帯を設けるとする米口協定に拍手する前に、我々には慎重な対応が必要である…。

我々はこの協定に安心して眠りこけてはならない。嬉し泣きなどとんでもない。その詳細は判らず、しかも紙の上の文字にしかすぎないのである。安心してはならない。ローハニ(イラン大統領)、ベラヤチ(ハメネイ最高指導者のアドバイザー)、ナスララ(ヒズボラ書記長)の言辞から判断して、我々は、南西シリアの鎮静化約束を鵜呑みにせず、イランが我々の姉妹国(シリア)から撤退するのが先決であることを要求すべきで、それには、まず我々の北部国境域から撤退しなければならない。我々は国境周辺に如何なる民兵隊といえども存在を許してはならない。シリアで起きていることは、諸国間のゲーム、それも汚いゲームである。我々は我々の目で確かめる迄(イランの部隊撤退の)約束など、誰がしようとも信じてはならない」※9。

写真A


ダマスカス南部のアル・キスワにイランが建設中の基地(image: bbc.com, November 10, 2017)

国境周辺にイランのプレゼンス―容認できない戦略的脅威―Al-Dustour紙会長

Al-Dustour紙会長ダオウディア(Muhammad Daoudia)は、「ヨルダンに対するイランの脅威」と題して、次のように主張した。

「さまざまなイラン側指導者が、自国の拡大とアラブ諸首都―バグダッド、サナア、ベイルート、ダマスカス―に足場を築いた、と宣言している。それも、イランとハマスとの結びつきがあり、我々の北部国境域への浸透をイランは孜々として進めている。この地域に存在するイラン民兵隊代表としてイランの軍上級指揮官達は、ヨルダンを念頭においた声明を公にだしている。威嚇や圧力の型で表明されるのである。イラン民兵隊(Basij)前司令官ナクディ(Muhammad Reza Naqdi)は、現職の時自分の部隊が、レバノンとパレスチナでやっているように、ヨルダンでもプレゼンスを確立すると言った。シーア派の戦闘員が、(イランの)ソレイマニ将軍(Qassem Soleimani)の指揮下革命防衛隊とそのクードス隊の支援をうけ、アフガニスタン、レバノン、イラク、イランから数千人単位でシリアに流入している…

イランの指揮下で宗派(シーア派)民兵隊が北から我方国境へ接近し、IS(イスラム国)テロ組織に代ってこの正面に足場を築きつつある。我々の立場からすると、安全保障上の脅威になり、それが強まりつつある。これは、シリアとの国境350qの線で、イランと対峙することを意味する…。

イランは、シリアとレバノンに軍事産業の基盤作りにも着手している。それには、長射程ミサイルの生産施設も含まれるのである…※10。

イランの行動で、我々は、このイランの隣人≠戦略的脅威とうけとめざるを得なくなり、イランが指揮する宗派民兵隊のプレゼンスと脅威を排除し、我国境域の安全と安定を維持するため、必要な対策をとらざるを得なくなった…」※11。

対応をせまられる第313旅団の編成進出と地域情勢―ヨルダン人研究者

ヨルダン大学戦略研究センターの研究者ルマン(Muhammad Abu Rumman)は、Al-Ghad紙のコラムに、次のように書いた。

「先週水曜日(11月8日)調印された南シリア緊張緩和合意があるにも拘わらず―それは米ロ間の(2017年7月の)アンマン合意を補強するのが目的である―地域情勢の変化を考えれば、合意はそんなに単純な話ではない…。

南シリアの緊張緩和合意のための準備中、驚くべきことが起きた。デラアに民兵隊(第313旅団)が編成されたのである。シリアの反体制派によると、この部隊は宗派性が強い。イズラの民兵隊もそうである。いずれもイランの革命防衛隊から充分な支援を受けており、これまでイラク及びシリアで編成された宗派民兵隊をモデルとしている。

この動きには、イランの相当狡智な奸計がからんでいる。この一連の民兵隊はローカルな性格で、ヨルダン国境から移動し、次の段階でもっと重要な目的のために投入された。即ち宗派間紛争を(シリア)南部に持ちこみ、イラン進出の足場をつくると同時に、ほかの集団との対決用として使われる…このようなイランの動きは、ヨルダン及びアメリカの考慮の埒外であったと思われる…。

ヨルダンの合理的且つバランスのとれた対応は、敵意にみちた地域の環境にあって、ヨルダン国民多数から評価されている。国民はこの地域が更に悪い局面へ傾斜していくことを恐れている…」※12。

ヨルダン国境における第313旅団の編成はイラン・ヨルダンのラストタンゴ―Al-Dustour

アンマンの政治研究センター長アル・ランタウィ(Oraib Al-Rantawi)は、Al-Dustourのコラムで、「イラン・ヨルダンのラストタンゴ」と題し、次のように主張した。

「国家間の関係はタンゴのようなものである。パートナーが必要で、1国だけでは進展しない…これまで、多分この40年、ヨルダンの対イラン関係は、ヨルダンの立場からみると、二つの基準をベースとしている。第1は、ヨルダンの対湾岸諸国との関係、第2はテヘランとワシントンとの関係である。原則の問題として、ヨルダンは、二つの友邦であるワシントンとリヤドを無視できない…。

ヨルダンが善意のメッセージをイランに送りたいと考える度に、ひじ鉄をくらってきた。アンマンとテヘランのラストタンゴは昨今起きた。レバノンの私の友人が、イランの革命防衛隊の指揮下にある第313旅団について、私の意見をきいた。この部隊は、南シリアで編成され、デラア省のイズラという町に司令部をおいている…これは、テヘランが―(シリアに関する)アスタナ協定路線の保障者のひとりである―ヨルダンの立場をよく判っていながら、この挙にでたのである(ヨルダンは、イラン部隊とシーア民兵隊を、緩衝地帯に後退させておくことを、断固として求めている。地域が険悪になりつつある時であり、この部隊配置のニュースが来た。一押しすれば、或いは不幸な事故でも、奈落へつき落されそうな状況となった…)※13。

ISに対したように、どの国もイランの拡張計画から身を守らなければならない―前情報相発言

ヨルダンの前情報相アル・マアイタ(Samih al-Ma`aita)はヨルダンのe−daily Amon Newsに、次のように書いた。

「ヨルダンはイランの動きと精神構造をよく知っており、(イランが)既にレバノン、イエメン、バーレイン及びイラクでやったことを繰り起そうと躍起であることも、判っている…。

ヨルダンは、イランの拡張計画に反対し、この計画に反対するアラブの抑止外交の展開を求めている。いずれにせよ、IS(イスラム国)が後退しその深刻性を失った現在、イラン・アラブ問題が次の重大問題になると思われる。恐らく各国は、ISの場合と同じように、それぞれが自国を守らなければならない。それは、イランが地域の支配者ではなく、一員であることを納得する迄は続くということである」※14。

*Z・ハレルはMEMRIの研究員

[1] Al-Ghad (Jordan), September 13, 2017.

[2] メディアには南シリアの緊張緩和地帯の地図が数種類出ているが、公式の地図ではない。公式地図は発表されてない。

[3] Al-Ghad (Jordan), November 11, 2017.

[4] Facebook.com/Russianmilitaryinsyria, November 14, 2017.

[5] この種部隊の編成はよく知られたイランの手法である。次を参照:MEMRI reports: Inquiry & Analysis No. 1241, In Syria, High Rate Of Draft Dodging Triggers Intensive Military Recruitment Efforts By Syrian Regime, April 25, 2016; Inquiry & Analysis No. 1242, Syria Regime Establishing Popular Armed Militias Modeled On Iranian Basij, April 25, 2016.

[6] Bbc.com, November 10, 2017.

[7] Al-Rai (Jordan), November 16, 2017.

[8] アレッポ訪問時ベラヤチは「(我々の)抵抗正面はイランに始まりイラク、シリア、レバノンを通ってパレスチナに到達する」と言った。Aksalser.com, November 8, 2017.

[9] Al-Rai (Jordan), November 14, 2017.

[10] シリアのハマ近郊にイランの長射程ミサイル(Fateh 110 )の生産施設があることは、シリアの反体制派ウエブサイトで報道された。次を参照: MEMRI Special Dispatch No. 7004, Further Reporting By Syrian Opposition Website On Long-Range Missile Facility Near Baniyas: It Is Making Iranian Fateh-110 Missiles, July 11, 2017. レバノンにあるイランの長射程ミサイル施設については、次を参照:MEMRI Special Dispatch No. 6828, Kuwaiti Daily: Missile, Arms Factories Built By IRGC In Lebanon Have Recently Been Handed Over To Hizbullah, March 14, 2017.

[11] Al-Dustour (Iran), November 8, 2017.

[12] Al-Ghad (Jordan), November 13, 2017.

[13] Al-Dustour (Jordan), November 10, 2017.

[14] Ammonnews.net, November 8, 2017.


 

 

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