メムリ(MEMRI) - 中東報道研究機関 調査および分析シリーズ
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THE MIDDLE EAST MEDIA RESEARCH INSTITUTE

調査および分析シリーズ


 
Inquiry and Analysis Series No 1374 Feb/15/2018

代理勢力使用から直接対峙へ―イランの対イスラエル戦略の転換
イスラエル空域侵入のイラン操作ドローン

A・サヴィヨン、U・カファシュ*

はじめに

2018年2月10日、シリア所在のイラン軍部隊が、イラン製攻撃ドローン1機をイスラエルの空域内へ侵入させた。そのドローンはイスラエルの攻撃ヘリに撃墜され、更にイスラエルは、発進基地とドローン操縦車両1台を爆撃で破壊した。そしてイスラエルのF16戦闘機1機が、シリア軍の対空火器で撃墜され、その機はイスラエル北部に墜落した。イスラエルはその報復にシリア内のイラン軍及びシリア軍のターゲット17ヶ所を爆撃した。この戦闘について、イスラエル空軍の副司令官は「シリア軍の対空陣地に対する今回の攻撃は、1982年のレバノン戦争以来最も大きく且つ重大な意味を持つ」と述べた※1。

対イスラエル戦略を転換しすぐに元に戻したイラン

最近イランはイスラエル攻撃の準備を加速していた。2017年12月、イランの革命防衛隊(IRGC)クードス隊司令官ソレイマニ(Qassem Soleimani)は、この準備についてハマスとイスラム聖戦に直接説明している。更にレバノン・イスラエル境界域にイラン軍高官が頻繁に来ている事実もある※2。

このような事実があるにも拘わらず、2018年2月10日の事件の前、テヘランは従来の主要戦略から逸脱していなかった。つまり中東で介入している地域では、直接戦闘せず、地域勢力を代理として使うのである。しかるに2018年2月10日にイラン軍がドローンをイスラエルの空域に侵入させたことは、この戦略の転換を意味する。即ち、イランがイスラエルに対して直接手をだしたのである。

イラン体制派の著名ジャーナリストであるダリリアン(Hossein Dalirian)は、革命防衛隊に近いイラン通信Tasnimの軍事担当デスクで、事件の要旨をツイートした。ドローンのイスラエル空域侵入の様子、撃墜されたドローンの残骸と同じモデルの完成品1機を並べて写真にとったものを、ツィートしている※3。(ドローンがイランのものとするダリリアンの発言詳細は追記を参照)。ダリリアンは事件の経過を次のように述べている。

1イランのドローンがイスラエルの空域に侵入。

2(イスラエルの)アパッチ攻撃ヘリが迎撃のため発進。

3同時にイスラエルの戦闘機がドローンのコントロールセンター攻撃のためシリアの空域へ侵入。

4ドローン撃墜

5シリアの対空部隊が攻撃ヘリとF16戦闘機を撃墜。

6イスラエル側:ドローンは罠として飛ばされた(と発言)

※イスラエルははまった。

写真@


ダリリアンのツイート(Twitter.com/HosseinDalirian/status/962233392854130688, February 10, 2018)

イランが対イスラエル戦略を転換した理由

今回イランが直接行動にでたのは、二つの理由がある。

1イラン政権は、2月11日の革命記念日のために軍事的成果を誇示したかった。

2政権は、国民の反政府抗議が続くなか国民の目を国内問題から外部の敵(イスラエル)へそらし、戦略的成果として誇示したかった。

事件発生の僅か数時間後に、イラン政権のスポークスマンは、イランの関与とイラン軍部隊所属のドローンの存在を全面的に否定し始めた。それと同時に、シリアにおけるイスラエルの空爆に警告を発すると共に、イスラエルが自由に行動できる時代は終ったとする最高指導者ハメネイの発言を強調した。

革命防衛隊(IRGC)副司令官サラミ(Hossein Salami)は、ドローン撃墜事件の数時間後、「シリアと被占領地(イスラエルのこと)との空域でイランのドローンをイスラエルが撃墜したとしているが、我々はイスラエルの報道を信じない。イスラエルは嘘つきであるから、シリアが確認すれば、我々も確認するということになる。我々はシリアに兵力を一切おいていない。我々は軍のアドバイザーとしてシリアにいるだけである。(シリアの)領土を守るにはシリア軍だけで充分なのである」と言った※4。

サラミ副司令官については、別の報道もある。それによるとサラミは「我々の最高指導者ハメネイ師は、“シオニスト政権は25年以内に終る。神の御助けにより、イスラムのウンマが完成する。今日イスラエル人達は、彼等の境界域にせまり来るムスリム児童の喚声を聞き、川から海までシオニストの地にするという夢を、放棄せざるを得なくなっている”、と言われた。アメリカは(イランに)制裁を加え、我々を麻痺させようとしている。しかし我々は前進した。我々はこの位置から、地域一帯にあるアメリカの基地を壊滅し、シオニストに地獄の苦しみを味わせることができるのである」言った※5。

イランの外務省スポークスマンのカッセミ(Bahram Qassemi)は、2月10日次のように述べた。

「イランのドローンが(イスラエルの空域を)飛んだとか、イランがシオニスト戦闘機の撃墜に関与したという話は、余りにも馬鹿げていて、コメントするに値しない。シリアにおけるイランのプレゼンスは、シリアの合法政権の懇請によるものであり、それも軍事アドバイザーの立場にとどまっているのである」※6。

2月11日、イランの革命記念日にあたるこの日、イランの防空部隊(Khatam Al-Anbia)司令官エスマイリ(Farzad Esmaili)は「この40年間、イスラエルは嘘の主張ばかりしてきた。我々は独立国家である。独立国家なら、攻撃されたら応分の行動をする。(イスラエルの)F-16とサウジのF-15については、それに該当する」と述べ※7.「攻撃をうけて黙っている独立国家はない」と言った※8。

イランの政府スポークスマンが、当事者はシリアと強調している点に注目すべきである。地域勢力を代理として使う戦略を維持し、イスラエルとの直接対決に転換しないことを確認するため、決断から決行まですべてシリアが行った、と慎重な言い方をしている。今回の事件について、イランの国家最高安全保障会議書記シャムハニ(Ali Shamkhani)は、「シリアは、一方的なヒット・エンド・ラン%I状況を変え、この地域で(末永く)記憶される事態の発動を決めたのである。この事件はシリア人民を歓喜させ、彼等は菓子を配って喜びあった。我々は、この抵抗(行為)に対しシリア人民にお祝いを言わなければならない」と言った※9。

ハメネイ最高指導者のアドバイザーであるベラヤチ(Ali Akbar Velayati)も、行動の主体者はシリアであることを強調した。イスラエルの攻撃に対応するためシリアが行動した。イスラエルの攻撃がなければシリアが行動するまでもないとし、次のように述べている。

「(イスラエル機撃墜)事件は、パレスチナ人民の闘争史上転換点となった。抵抗枢軸を構成する重要諸国のひとつ(シリア)が領土保全のための権利を行使したのである。イスラエル機の攻撃がなかったら、この事件も起きなかったのである。イスラエルは己れのしたことを考えなければならない。今回のようなことを繰り返す前に、国家は主権を守る権利があることを、肝に銘じなければならない。当然シリアはこの権利を有する…。

イランは、シリアの合法政権と迫害されるシリア人民を支援するため、シリアにいる。

イラン無しでは、抵抗枢軸がどうなるのか判らない。イランは、シオニスト政権の願望や指図ではなく、イランとシリアとの合意にもとづき、抵抗枢軸を守るためシリアにプレゼンスを続ける」※10。

イランが元の地域勢力を代理にする戦略に戻した理由

MEMRIの分析では、イランが直接行動の戦略から後退しているのは、イスラエルの抑止力がきいていること、さらには、自分の保護役になっている地域―シリア―でイスラエル・イラン戦争が起きることを望まぬロシアの抑制があること、に理由がある。

*A・サヴィヨンはMEMRIのイランメディア・プロジェクト長、U・カファシュはMEMRIの研究員。

追記:Tasnimの軍事デスクがツイートしたドローン事件

Tasnim通信軍事デスクのダリリアンは(ツイッター2月10日で)、次のようにツィートした※11。

写真A


"サエゲー型(Saegheh)は4発のスマート爆弾を搭載可能な長距離ドローンである。この爆弾はきわめて正確に目標に命中する。ドローンは201610月1日に初めて公開された。撃墜されたのがイランのものかどうかは不明。私は類似性を指摘しているだけである。Twitter.com/HosseinDalirian/status/962304677122539520

写真B


イランはこのドローンがイランのものかどうかまだ明らかにしていないが、このタイプはジェットドローンで、爆撃タイプ。イランのものに酷似。Twitter.com/HosseinDalirian/status/962306884014346240

写真C



私の判断は正しかった。撃墜された機体の翼の部分とイラン製サエゲー型が一致する。

Twitter.com/HosseinDalirian/status/962398606136356866

写真D


"サエゲー; #イラン#ドローン; #イスラエルははまった." Twitter.com/HosseinDalirian/status/962400696611082240

[1] Haaretz (Israel), February 10, 2018.

[2] 2017年12月11日、ソレイマニがハマス及びパレスチナ・イスラム聖戦の軍事指導者と電話で話をしたことが報じられた。その電話会談でソレイマニは、ウェストバンクで新しい活動家を確保するよう指示し、ウェストバンク武装化がハメネイ最高指導者の最優先事項であり、イランはパレスチナ人イスラム抵抗勢力をいつでも支援する用意があると強調、その地域の別の抵抗集団がエルアクサモスク防衛に挺身する用意もある、と述べたTasnim, Iran, December 11, 2017; Al-Jarida, Kuwait, December 13, 2017。

イランの政府高官及びイランのシーア派民兵・幹部―例えばハメネイの補佐ライシ(Ebrahim Raisi)イラクシーア派民兵隊指揮官アル・ハザリ(Qais Al-Khazali)―の訪問については、次を参照: MEMRI Special Dispatch No, 7313, Ebrahim Raisi, Associate And Designated Heir Of Iranian Supreme Leader Khamenei, At Lebanon-Israel Border: "Soon We Will Witness The Liberation Of Jerusalem," February 2, 2018; MEMRI Inquiry and Analysis No. 1366, Intensive Discussions In Resistance Axis Ahead Of Possible Joint Confrontation With Israel; Syrian Daily: A Confrontation Is Inevitable, January 1, 2018; MEMRI TV Clip No. 5745, Iraqi Shiite Militia Commander Qais Al-Khazali Enters Lebanon, Visits Israeli Border, December 8, 2017.

[3] イランのドローンはアメリカのRQ-170のコピー機である。イランで墜落した時オバマ大統領が破壊を命じなかったので、イランが回収し手に入れた。

[4] Tasnim (Iran), February 10, 2018.

[5] Tasnim (Iran), February 10, 2018.

[6]  ISNA(Iran), February 10, 2018. 同じく2月10日、ドローン撃墜事件の数時間後イランのロハニ大統領は、各国大使と代表に対し次のように述べた。「どこかの国が、テロを強大化し、外国に介入し、或いは隣国を爆撃して、期待する結果を手にできると考えれば、とんでもない間違いである。イランは、安定と安全保障のため、前よりもっと積極的に行動する用意がある…今日我々は三ヶ国間或いは数ヶ国間で関係を結んでいる(シリア関係でイラン、ロシアそしてトルコが協力していることを指す)。そして我々は、この種の関係がこの地域における平和と安定に有益であると認めている」。President.ir/fa, February 10, 2018.

[7] 2018年1月親イラン派のフーシ勢力がイエメン上空で撃墜したサウジのF=15戦闘機を指す。

「8」Tasnim (Iran), February 10, 2018.

[9] ISNA (Iran), February 11, 2018.

[10] Mehr (Iran), February 12, 2018.

[11] Twitter.com/HosseinDalirian, February 10, 2018.


 

 

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