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THE MIDDLE EAST MEDIA RESEARCH INSTITUTE

調査および分析シリーズ


 
Inquiry and Analysis Series No 292 Sep/20/2006

攻撃を受ければどう対応するか―イランの取り得る選択肢
ニムロッド・ラファエリ博士

はじめに

イランの政治、軍事最高首脳部は、一連の演説、生中継テレビインタビューで、イラン側の核施設がアメリカによって攻撃されれば、攻撃側に対して潰滅的打撃を与える、と明言している。その威嚇を強調するため、新型兵器をいろいろと紹介する。国産の小型潜水艦、飛行艇、水中ミサイル、各種機雷、対艦用沿岸ミサイル、そして数千の小型武装艇等々、その威力を誇示する。イランは核施設攻撃に対する報復手段として、軍事面などでいろいろな選択肢をもつであろうが、ホルムズ海峡の封鎖はそのひとつとしている(付録参照)。イランが考える選択肢には、例えば状況不安定化も含まれる。アメリカが来ても、そのプレゼンスを維持できないようにしてしまうのである。

A.ホルムズ海峡封鎖の影響

 ホルムズ海峡は南東のオマン湾と南西のペルシア湾を結ぶ細い水路帯で、戦略上極めて重要なチョークポイントである。北岸域にイラン、南岸域にアラブ首長国連邦、オマンの飛び地ムサンダムがある。1日平均1500万から1650万バレルの石油がホルムズ海峡経由で輸送されている。世界の生産日量の約25%である(参考照)。

表 湾岸諸国の石油生産(単位100万バレル/日、2006年7月分)

イラン 4.05
イラク 1.77
クウェート 2.25
カタール 0.84
サウジ 9.41
首長国連邦 2.60
 計 20.92
世界生産 (2006年5ヶ月平均) 84.52
湾岸生産の割合 24.75%

   イランの場合、従来平均375万バレル/日の生産のうち、約150万バレル/日が国内消費にまわされている。サウジの場合、石油輸出の60%ほどしかペルシア湾を経由していない。しかしそれでも、海峡封鎖或いは封鎖の脅しは、エネルギーの世界市場と原油価格に大きなインパクトを及ぼす。イラン自体打撃をうける。イランの輸出がとまれば、その経済は深刻な影響をうけるのである。

1) 世界市場に及ぼす影響

原油価格は、ほかの商品と同じように、不足と供給過剰で高乱下する。海峡封鎖でタンカーが航行できなくなれば、ひどい不足状態をつくりだす。スポット市場及び今後のエネルギー市場に衝撃波が走る。市場は既にタイトな供給状態にあって余裕がないから、衝撃は相当なものとなる。イランの脅しが本物となった場合、石油価格がどれ位高騰するのであろうか。今のところ推測の域をでない。ただし、1973年のヨムキプール戦争時アラブがとった石油禁輸は、ひとつの参考になる。1972年時原油価格は1バレル当り3ドル程であったが、1974年末には4倍の12ドル強となった。1バレル当り70―75ドルという史上類をみない現在の価格が、4倍以上になれば、どうなるか。世界経済は空前の景気後退。その影響は測り知れない。

 一方、原油供給の急激な落ちこみとそれに伴う価格高騰は、グローバルな需要にプラスの影響を及ぼす一面もある。特に輸送部門を中心に、より効果的な節約対策がとられるようになるだろう。更に重要なのは、アメリカを含むOECD諸国の大半が1973年の石油禁輸の経験に学び、原油の戦略備蓄をおこなっている。少なくとも6ヶ月分は備蓄しているのである。更にサウジの予防対策も、指摘しておく必要がある。世界最大の原油輸出国であるサウジアラビアは、湾岸の紛争防止に影響力を行使するとしている。

2) サウジアラビアに及ぼす影響

 サウジアラビア産原油の大半は、巨大なアブカイク処理施設を経由し、ペルシア湾から輸出されている。この施設は、同国の石油生産の約3分の2を扱っている。主な石油輸出ターミナルは、ラス・タヌラ(能力600万バレル/日、世界最大のオフショア積出し施設)、ラス・アルジュアィマー(300万バレル/日)。いずれもペルシア湾にある。しかしながらサウジは、主要パイプラインを2本使用している。ひとつがペトロライン(東西原油パイプライン)で、原油は西部州の整油施設へ送られ、紅海のターミナルからヨーロッパ市場へ輸出される。ペトロラインは、イラン・イラク戦争時の1987年(特に湾岸のタンカー戦争℃栫j輸送能力を拡大し、当初の185万バレル/日から現在の500万バレル/日になった。ペトロラインは、輸出が湾岸の出入口でブロックされた場合に備え、湾岸港湾施設に対するひとつの戦略対応として、紅海側ヤンブーを使うために、拡張工事がおこなわれたのである。このペトロラインと平行して走っているのが、アブカイク・ヤンブー液化天然ガスパイプラインである。輸送能力29万バレル/日で、天然ガスはヤンブーの石油化学プラントで使われている。要約すれば、世界最大の原油出国サウジは、ホルムズ海峡封鎖では極く一部しか影響をうけない。

3) アメリカに及ぼす影響

 アメリカの場合、戦略備蓄は輸入原油で補充される。ちなみにこの輸入は海峡封鎖に影響されない。対米石油輸出国の上位5ヶ国の2006年6月実績はカナダ(117万9900バレル/日)、メキシコ(117万3400バレル/日)、サウジアラビア(142万7000バレル/日)、ベネズエラ(100万8000バレル/日)、ナイジェリア(99万6000バレル/日)である。ほかに、イラク、アンゴラ、アルジェリア、エクアドル、ロシアもアメリカへ輸出しており、アメリカ自身約520万バレル/日を生産している。神政国家イランに連帯して、対米輸出を中止する可能性があるのは、社会主義者の大統領チャベツ(Hugo Chavez)に率いられたベネズエラである。チャベツ大統領は、独裁勢力とは必ず連帯する人物である。前に指摘したように、サウジの原油輸出は影響をうけるが、一部にとどまると思われる※1。

4) イランに及ぼす影響

 エナジー・インフォメーション・アドミニストレーションによると、イラン経済は石油依存度が極めて高い。輸出収入の80〜90%は石油収入である。石油輸出収入は、2005年の場合466億ドル、2006年の目標は約10%増の501億ドルに設定されている。この目標設定は原油輸出250万バレル/日をベースとしている。大まかにみて、世界の原油生産の5%に相当する。現在イランの原油生産は約400万バレル/日であるが、150万バレル/日は国内消費向けである。ホメイニによる革命騒ぎの前、イランは600万バレル/日を輸出していた。石油施設に対する大々的な投資がなければ、イランはこの水準へ戻れない。

 イランは1982年以来石油製品を輸入している。その輸入は急速に増加している。現在イランは、ガソリンの3分の1を輸入しており、政府の補助金に支えられ、国内市場では1ガロン40セント以下で販売されている。国際水準より随分安い。それはガソリンの浪費を助長し、ガソリン消費が非常に増えている(年率8―10%)。量からいえば、イランはアメリカにつぎ世界第2のガソリン輸入国である。2005年の場合、イランのガソリン消費量は40万バレル/日、そのうち15万バレル/日が輸入である。2006年の消費は46万2000バレル/日で、内18万8000バレル/日が輸入になる予定である。消費の約41%分が輸入ということである。イランは、ヨーロッパの石油業者ヴィトルを通して、ガソリンを購入している。残る15%は、インドの整油所からの入手である(インドは、環境保全無視、そして安価な労働力に助けられて、巨大な整油施設をつくりつつある。石油製品の多くは輸出用とされる)。

 2006年夏イランでは、ガソリン需要の拡大とそれに伴うガソリン補助金の増加をどうバランスするかで、大きな論争がまきおこった。イラン国営石油会社(ナショナルイラニアンオイル)は、25億ドルの予算のほぼ全額を、ガソリン輸入に使った。しかし議会は、会計年度の終る2007年3月末まであと35〜50億ドルの補助金を支出することに反対である。

 この問題については、いくつかの対策案がだされている。2007年9月に輸入契約の多くが期限切れになるので、この際ガソリン輸入を中止し、ガソリンを配給制にするとか、二重価格制のメカニズムを導入などの案があるが、いずれにせよ対策は避けられない。ガソリン不足は密輸業者にとってうま味のある商売の種で、政府高官と裏取引して、ぼろ儲けをする例があとをたたない。更にまた、補助金を削減すれば、アフマディネジャド大統領の支持基盤である下層民が打撃をうける。要すれば、海峡封鎖はイランにとって諸刃の剣であり、しかも、原油輸出とガソリン輸入の両面で、打撃をうけるのである。

 一方、ファクツ・グローバルエナジー・グループ(FACTS Global Energy Group)のフェシャンキ会長(Feridun Feshanraki)の計算によると、イランの核開発計画に端を発する紛争の火種は大きくなり、これがアフマディネジャドの経済政策(特定分野の産業国有化、その産業に対する偽装失業率のシワ寄せ一余剰労働力を押しつけ、失業率を低くみせる)に対する信頼性が低下し、「イラン経済の信用レベルは低下、投資は停止するに至った」のである。イランの年間石油収入に相当する最大500億ドルの資金が、イランから国外へ移された。

 

イランの原油輸出先は、上位10ヶ国の第1位が日本である(2位の中国と比べて約2倍)。3位以下は韓国、イタリア、フランス、オランダ、トルコ、南アフリカ、台湾、ギリシアの順である。対米紛争のため、上位10ヶ国の顧客に打撃を与えてもよいのかどうか。イランが真剣に考えているのは間違いない。

 以上のさまざまなファクターを考慮に入れつつ、イラン政府は、湾岸域の原油輸出の妨害が持つ意味と、ガソリン輸入に及ぼす影響を、慎重にはかりにかけて考えなければならない。失業率は15%に達している現状から、石油収入の減少の結果、食料品に対する補助金をカットすれば、移り気の下層民社会がテヘランのムッラー(イスラム法学者)政権に反撥し、深刻な事態をひき起すことも、充分考えられる。以上のことを考慮すると、ホルムズ海峡の航行船舶はおろか浮遊物もすべて撃沈する能力ありと、豪語したり威嚇したりしても、結局はリスクの少ないコースをイランはとるのかも知れない。そのコースとは、イラクの利用で、これを選択することもあり得る。財政上は比較的負担にならず、イランの顧客を動揺させないという利点がある。もっと重点なことは、政権の基盤であると同時に補助金に依存する下層民社会の不満をたかめない点である。

B.イラクをターゲットにする選択肢

 イラクで、多国籍軍特に英米両軍を打撃して苦痛を与える場合、費用対効果のうえで、大変有利である。アル・ジャジーラTVで或る外交問題専門家が述べたように、「核開発問題で(西側が)厳しく咎めだてをしているのに、イランがイラクのシーア派を鎮撫すると期待するのは、無理。賢明な考え方ではない」のである※2。

 イランはイラクに強力なプレゼンスを築きあげている。特にイラク南部がそうである。現在、イランのムカバラットと革命防衛隊数百名が、イラクの各種治安機関のなかに浸透していることが判っている。主に南部所在の機関である。ナジャフとカルバラへの巡礼者に化けて、イラクへ来る者も多い。或いは、警備されていないイラクの国境を意のままに、越境する者もいる。アメリカの駐イラク大使ハリルザド(Zalmay Khalilzad)は7月の記者会見で、イラクにおけるイランの軍事プレゼンスを確認した。

 イラクのシーア派民兵組織のうち強い戦力を持つ民兵隊が二つある。そのひとつバドル旅団は、イラク・イスラム革命最高評議会(SCIRI)と結びついている。過激聖職者アル・サドル(Muqtada al-Sadr)に率いられたジェイシ・アル・マフディ隊(Jeish al-Mahdi)は、イランから資金援助と訓練をうけており、成長を続けている。イランは、資金その他さまざまな面で支援しているレバノンの民兵隊ヒズボラを教唆煽動して、イスラエルと戦わせた。イランは同じことをイラクでやれる。この二大民兵組織を動かして、多国籍軍と戦わせることは、朝飯前である。イギリスのチャタムハウス(王立国際問題研究所)がおこなった最近の研究によると、イラクの庶民社会を支配しているのは、ワシントンではなくテヘランである※3。

 ジェイシ・アル・マフディ隊とイラク軍は、2006年8月第5週南部の都市ディワニヤで交戦した。これは、アル・サドルとテヘランのボス達の実力を物語る。彼等は意のままに軍事行動を起す力がある。ジェイシ・アル・マフディ隊は既にかなりの暴力事件をおこしている。バグダッド市中やその他の地域で、暴力を以てシャリーアの規則を強要し、僅かに残るイラクの世俗主義を、同じく暴力を以て圧殺しつつある。スンニ派人士の殺害にも関与してきた。アル・サドルがイラク人民の総大将となれば、タリバン式の支配を開始するであろう。

イランは、破壊活動でイラクの石油輸出を妨害することもできる。イラクの石油収入は2006年の場合250億ドルと推定される。収入がなければ予算が組めず、第一治安機関に支払う金もなくなる。そうなれば、治安機関は政治的不安定要因になる。更に、イラクの石油輸出(約200万バレル/日)が妨害されると、世界のエネルギー市場に衝撃波が走ることになる。

結び

 この短いエッセーは、核施設を攻撃された場合イランがとり得る報復の選択肢と、世界のエネルギー市場に及ぼす影響を、主として扱っている。アメリカとイランにとって如何なる意味を持つかについても、触れておいた。ホルムズ海峡が封鎖された場合、タンカーだけでなく、イランなど多数の関係諸国へ食料品を運ぶ貨物船も影響をうけるが、このエッセーでは、通商上の影響については扱かっていない。イランに制裁が課せられた場合のイランの反応、も扱っていない。我々は、ロシアと中国の拒否権行使で、制裁発動の可能性はない、とみている。核施設を攻撃された場合、イランは世界のエネルギー市場に深刻な影響を及ぼす方式よりは、イラクで報復する方を選ぶ。すべてを考慮したうえでの我々の判定がこれである。イラクで報復する方が安あがりで、しかもより効果的で安全である。更に重要なのは、こちらはイラク人民の反政府蜂起につながらない点。イランの輸出がとまれば、補助金もストップしなければならず、これが反政府機運をたかめるが、イラク攻撃であればその危険性はない。

 イランは、中東の大国としての役割を演じたい。アフマディネジャドはブッシュ大統領に、テレビによる公式ディベートの挑戦状をつきつけたが、それは、アメリカと対等、対等でなくてもそれに近い力関係を持ちたいという願望のあらわれである。前に引用したチャタムハウスの研究報告は、「アフマディネジャドの大統領就任で、同胞さえたじろぎ警戒する新種の千年至福王国説が持ちだされ、地政学上のイランの願望に付随する力学を一段と複雑なものにした」と指摘している※4。

 ロシアと中国の意図的攪乱を考えると、2006年8月31日に設定された期限が切れても、果たして国連安保理がイランに対してなんらかの行動をとるものかどうか、疑問の残るところである。

 最近原油価格が低下したことは、架空の市場≠ェ近いうちに軍事行動が始まることを予期していない証左とも思える。イランのバザールの商人達と同じように、イラン外交は、核技術≠ノ関する交渉でダメ元式で延々たる交渉を展開できる。小刻みのスペースがなくなるまで、交渉を続け、その後でやっと取引をするのであろう。

ニムロッド・ラファエリ博士はMEMRIの中東経済研究プロジェクトの主任研究員

付録

MEMRI TVクリップ #1246

イラン軍上級幹部新兵器システムを紹介、ペルシア湾岸におけるアメリカ軍との対決の可能性を語る。

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=1246

MEMRI TVクリップ #1102

イラン、新型飛行艇とミサイル2機種をテスト。

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=1102

MEMRI TVクリップ #1097

イラン新型の高速水中ミサイルを展示。

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=1097

MEMRI TVクリップ #1095

イランのテレビ、機雷敷設におけるダイバー訓練を紹介。

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=1095

MEMRI TVクリップ #1065

イランのナハンT級新型潜水艦

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=1065

MEMRI TVクリップ #780

イランの国防相同国の宇宙空間活動を語る。

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=780

MEMRI TVクリップ #779

メスバー、イランの新しい衛星。

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=779

MEMRI TVクリップ #676

イランのテレビ、ガーディル級新型潜水艦≠フ模型を紹介。

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=676

MEMRI TVクリップ #575

対米戦争の準備を語るイラン軍高官。

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=575

MEMRI TVクリップ #272

テヘラン市中の軍事パレード。

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=272

MEMRI TVクリップ #252

我々は米本土の核爆弾をターゲットにする一革命防衛隊幹部のテヘラン大講演(パートU)

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=252

MEMRI TVクリップ #212

イラン国防相、イランの先制攻撃の可能性を語る。

http://www.memritv.org/search.asp?ACT=S9&P1=212

※1 データの大半は、エナジー・インフォメーション・アドミニストレーション(米政府のエネルギー問題担当機関)発行の各種資料から引用。

※2 2004年8月31日付Aljazeera.com

イラク及び国際原子力機関に対するイランの見解。

※3 「イラン、その隣接諸国と域内危機」英王立国際問題研究所、2006年ロンドンP20

※4 同上 P8


 

 

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