メムリ(MEMRI) - 中東報道研究機関 調査および分析シリーズ
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THE MIDDLE EAST MEDIA RESEARCH INSTITUTE

調査および分析シリーズ


 
Inquiry and Analysis Series No 505 Mar/29/2009

靴投げ事件にみるアラブ世界の屈折心理
D.ハザン*

2009年3月12日、イラクの刑事裁判所は、アメリカの前ブッシュ大統領に靴を投げた罪で、イラク人報道記者ザイディ(Muntazar Al-Zaidi)に3年の実刑判決を言い渡した。判決言い渡しの頃、裁判所の外では、数十人が被告の釈放を求めてデモを行った※1。

ザイディの靴投げ事件以来、靴投げが抗議のシンボルになっている。ヨーロッパ各地で、アメリカの政策に反対するデモ隊がアメリカ大使館に靴を投げ、反イスラエル派は靴をふりまわして、イスラエルのガザ攻撃に抗議した。さまざまな国の要人もターゲットにされた。2009年2月2日、中国の温家宝首相は、ケンブリッジ大で講演中靴を投げられ※2、イスラエルのベニー・ダガン駐スウェーデン大使も、ストックホルム大で講演中靴を投げられた※3。一方イランでは、2009年3月5日に西部のウルミア市訪問時、イランのアフマディネジャド大統領搭乗車に、ひとりのイラン人が靴を投げつけた※4。

アラブのメディアはブッシュ靴投げ事件に興奮し、大々的な反応をひきおこした。イラク当局は本件を非難し、イラクの衛星テレビAl-Baghdadiyya記者ザイディを逮捕した。しかしながら一般大衆はザイディに感情移入し、その行為を赦したのみならず、本人を英雄視した。この大衆支持は、無数のデモで表明された。デモ参加者はザイディの釈放を要求し、拘置生活での健康を気遣った。更に沢山の弁護士が弁護をかってでた。この事件はメディアが大々的にとりあげ、報道記事のみならず、分析や献詩、風刺漫画を沢山発表した。

ザイディ支持者は次のように主張する。

第1、靴投げ事件は、米軍のイラク駐留に対するやり場のない怒りとフラストレーションの結果である。第2、ザイディは、イラク国民及び全アラブの感情を吐露した英雄である。第3、事件はイラクの名誉を回復し、ブッシュを侮辱して任期に終止符を打った。第4、これはアメリカの対イラク政策の失敗を物語る証拠である。第5、石がパレスチナ人の武器であるように、靴はイラク人の武器である。この武器云々に関連して、この靴こそブッシュが懸命に探して発見できなかった大量破壊兵器である、と皮肉る者もいた。

 一方、ザイディを中傷する者は、次のように論じる。

第1、靴投げはジャーナリズム倫理を傷つけた。第2、ザイディはジャーナリズムという職務の性格を理解しなかった。第3、サッダム・フセイン時代靴を投げることはおろか、自由にものが言えなかったが、靴投げはブッシュがイラクの民主化に成功したことを物語る。フセイン時代なら死刑であった。

 熱烈なザイディ擁護派は、反米諸国、反米組織を含む。シリア、スーダン、イラクのサドル派、エジプトのムスリム同胞団、レバノンのヒズボラである。エジプト国内の反応は、賛否両論であったが、賛成即ちザイディ支持が圧倒的に多かった。意外であったのは、ロンドン発行のサウジ系新聞Al-Hayatの反応で、反米的態度をとり、ザイディの行動を賞賛した。

 次に紹介するのは、この靴投げに関する記事、詩及び風刺漫画選である。

ジャーナリズムとは関係のない蛮行―イラクの公式反応

 イラク政府はこの事件を非難し、「ジャーナリズムとは何の関係もないあきれた蛮行」と呼び、ザイディを報道記者として雇っているテレビ局アル・バクダディヤ放送に「この行動はイラク人ジャーナリストとジャーナリズムの評価を傷つけたので、公式に謝罪」するように求めた※5。

 一方、エジプトから放送しているアル・バクダディヤ放送は、イラク当局にザイディの即時釈放を求めた。アメリカそしてイラクの新しい民主政権が唱える表現の自由、民主々義の諸原則に従った要求であるとした※6。

アラブの大衆はザイディを絶賛

 アラブメディアの報道によると、イラクを含むアラブ世界の一般大衆はザイディとの連帯を表明し、本人とその行為を美化した※7。次に紹介するのはその報道。

 2008年12月15日、サドル派の支持者達がバグダッド、バスラ、ナジャフに参集し、ザイディの釈放、勾留中のまっとうな扱いを求めて、デモをおこなった。イラクジャーナリスト協会は、ザイディの行動に驚きを表明したが、それでもマリキ首相に人道的見地≠ゥらザイディの釈放を求めた※8。イラク人弁護士デュレイミ(Khalil Al-Duleimi)は、サッダム・フセイン裁判時の弁護団(22名)のひとりであるが、国際弁護団の編成に向け努力がつづけられており、アラブ人弁護士200名が参加の意志を表明している、と述べた。「報道の自由防衛機構」も政府に釈放と勾留中の適切な処遇を求めた※9。ガザでは、ジャーナリストと知識人のサークルが、ザイディと連帯する会の結成を決めた※10。リビアでは、慈善団体の会長をつとめる最高指導者カダフィの娘アイシャが、人権擁護の功績者に与えられる勇気勲章の授与を決めた※11。サウジの或る億万長者は、ザイディによって投げられた靴に、1000万ドルの値をつけた※12。

靴投げを支持する記事

1バグダッドの靴はアメリカの歴史に大きなインパクトを与える―シリア紙

 シリア議会のアブラシ議長(Mahmoud Al-Abrash)は、暴君≠狙った靴投げを賞讃し、「シリア人民議会は、この英雄を支持する。我々はイラク議会も本人を守ることを期待する」と述べた※13。シリア紙Al-Watanは、次のように主張している。

 「ザイディの行動は、イラクの名誉とプライドを示すものであり、ブッシュ大統領に対するバグダッドのおさらばキッスで、ブッシュが靴投げを重大視していないように見えるのは、本人が投げられるのに慣れっこになっているためである。しかしながら、バグダッドの靴は別格で、アメリカの歴史に大きなインパクトを与える…。

 アメリカの大統領は理解していないが、イラクに導入したとして自慢した民主々義が、本人のような人物にふさわしいものとして、靴なげキッスを選んだのである。将来もそれしか与えない」※14。

シリアの通信社Champressサイトに掲載された記事は、次のように主張する。

「この国は現代の人殺し(ジョージ・ブッシュ)によって打ちのめされた…この怒れる若者が、屈辱に対する自分の感情を表明するため、靴を使う権利はないのであろうか…この人殺しによって強要された安全保障協定について、このバグダッド住民が自分の意見を表明する権利はないのであろうか…。

有難う、有難うムンタザル・ザイディ。君は、ブッシュ、彼に追随する支配者達、そしてアラブの有象無象の聖職者共に歴史で一番大切なことを教えてやったのだ…君は又、この靴こそ大量破壊兵器であることを証明し…大量破壊兵器の探知、捜査が今日完了したと宣言したのである」※15。

アラブ首長国連邦紙Al-Khaleejによると、シリアの教育相アガ(Dr.Riyadh Agha)は、アラブの一教育者として、ブッシュの対イラク政策に対するザイディの意見表明法を評価すると述べ、次のように語った。

「私は、爆薬ベルトをつけてブッシュの傍らで点火自爆するよりも、こちらの方がずっとよいと考える。ザイディは、ブッシュに対する全世界の気持を代弁したのである…歴史が自分をどう評価するかに気付くならば、ブッシュは生まれたことを後悔するだろう。歴史はブッシュが300万を殺した責任者、稀代の殺人犯とみなすであろう。これは、ヒトラーやムッソリーニの犯罪より格段に大きい。二人は列強と互角の戦争をやったが、世界最大の国家大統領ブッシュは、(イラクの)バクーバという寒村に全兵力を投入し、(バグダッドの)サドル市の住宅区を2ヶ月も包囲した…ブッシュのようなみじめな末路を迎えるか、ダマスカスの尊敬を得た(ジミー)カーターのような名誉ある花道をあゆむのか、オバマ次期大統領はいずれかを選ばなければならない」※16。

2靴戦争は占領者に対する戦いの一環―スーダン紙

スーダン紙は、アラブ全人民の気持を代弁したとしてザイディを賞讃した。主流半官紙Al-Rai Al-'Amの編集長バキート(Kamal Bakhit)は、次のように論評している。

「このイラク人ジャーナリストは、作家やジャーナリストがペンで伝えられなかったことを、自分の靴で表現した…大西洋から(ペルシア)湾岸までアラブ共同体の成員数億は、機会に恵まれるなら、喜んで同じことをしたであろうが、今回はザイディが全員(の気持)を代表して、これをやったのである。

警備が厳しくなかったならば、ザイディは、ブッシュとマリキ首相のボディガードからサブマシンガンを奪いとり、(ブッシュに)数十発ぶちこんだ筈である…ブッシュに良心のひとかけらでもあったなら、自ら命をたった筈である…なにしろザイディが世界を前に前代未聞の形で侮辱したのである…

マリキとブッシュの死の天使が昨夜ザイディを葬り去ったが、彼はアラブの輝しき英雄として未来永劫記憶される…靴投げ戦争は、石がシオニストに対する武器になったように、占領者との戦いの象徴になったのである…イラク人民とアラブ共同体全員が、英雄ムンタザル・ザイディを永遠に記憶していかなければならない」※17。

スーダン日刊紙Al-Intibaha編集長ムスタファ(Al-Tayyib Mustafa)もザイディ賛美記事を掲載。靴投げ事件時のブッシュの態度と処刑時のサッダム・フセインの態度と対比し、次のように書いた。

「ブッシュは、ザイディの靴を避けるため、ふるえながら身をかがめた。イラク大統領たる殉教者サッダム・フセインは、処刑を前に目隠しをとらせ、胸をはって死についた。恐れ戦くブッシュの姿とフセインの従容たる態度の違いを見よ」※18。

3イラク人民の反米闘争の象徴―ヒズボラ

レバノンのヒズボラは、ザイディの勇気を称え、彼の行為を「占領に反対するイラク人民の明確な意思表示」であり、「暴君のシンボルたるブッシュと全占領者の終焉を告げるしるし」と主張した。

ヒズボラは、ザイディが殴打され逮捕されたことを非難し、本人を英雄としてうけとめよと呼びかけている※19。

4靴はブッシュに対するイラク人民とアラブの意志表示―エジプト紙

エジプトでは、何人かのジャーナリストがこの事件を讃美した。半官紙Al-Gumhouriyya編集長で国会議員でもあるアリ・イブラヒム(Muhammad 'Ali Ibrahim)は、ザイディ讃歌の記事を書き、次のように主張した。

「ブッシュは、任期の終りにイラクでザイディの靴をデザートに味わった。この靴は、ブッシュに対するイラク国民とアラブ人民の思いを一番強く代弁している。彼等にとって、ブッシュの任期はきわめつきの災難であったからである」※20。

同じような意見がエジプト紙Al-Akhbarに、掲載されている。筆者は編集長バラカット(Muhammad Barakat)及び前編集長サーダ(Ibrahim Sa'da)である※21。ムスリム同胞団のウェブサイトもいくつか賞讃記事を掲載した。メッカ巡礼時ムスリムがサタンに石を投げる習慣とブッシュめがけて投げた靴を類似させた記事もある※22。

サウジ系ロンドン発行紙Al-Hayatは、異例にも反米の立場をとり、ザイディの行為を賞讃した。同紙コラムニストのザイン(Mustafa Zein)はブッシュにふりかかった災厄に歓喜し、次のように書いた。

「イラクの(多数の)人命を奪い、国土を破壊した揚句、世界中にテロリズムを拡散したにも拘わらず、偉大な業績をあげた指導者として歴史に名を残すべく、最後の最後まであがき続けた。しかし、ひとりの率直なジャーナリストが自分の靴を使って気持を表明し、解放者≠フ面をめがけてなげつけたのである。命中はしなかったであろうが、嘘を殺し、歴史にその名を残したのである」※23。

サウジの衛星テレビAl-Arabiya副局長でAl-Hayat紙のコラムニストでもあるシルヤン(Daoud Al-Shiryan)は、ブッシュに屈辱を与えたとしてザイディを賞讃し、次のように論じた。

「ブッシュ大統領が靴をよけることができたのは、イラク人ジャーナリストのムンタザル・ザイディが狙いをはずしたためではない。相手の殺傷ではなく、屈辱を与えるのが目的であったからである。これは、考え得る限りベストなやり方であった…。

アメリカの新政権は、安全保障協定が妥当性を欠くことを理解しなければならない…ザイディは靴のインティファダを始めたのである…靴に政治的な意味をこめたイラク人ジャーナリストの勇気に、アラブ人ジャーナリスト達は賞讃を惜しまない」※24。

スウェィド('Abd Al-'Aziz Al Suwayed)は、靴を心理的武器と考え、次のように論じる。

「この数年間イラクとイラク人民に爆弾とロケットが雨あられと降り注いだ。靴投げの物理的衝撃は、この兵器と比較にならない。しかしながら心理面からいえば、事情は違ってくるようである…石が武器になったように、一片でも自尊心を持っている人にとって、靴が武器になることを(ザイディは)証明したのである。

この(事件の)結果、ジャーナリストは記者会見で靴履きを禁じられ、そのうちカメラの携帯も駄目ということになろう…メディアは今後予想される攻撃から自衛するため、ムンタザルを守らなければならない…。

(ザイディは)職務に忠実で故国に忠誠を誓うメディア関係者のひとりである。彼には1足の靴しかなかったのかも知れないが、その靴の助けを借りて、表現の自由と圧政からの自由の擁護を説く世界最大の民主″荘蜩摎フに、異議を唱えたのである」※25。

靴投げ批判記事

1アラブの熱狂は無力感の裏返し―ロンドン発行アラブ紙

 ロンドン発行アラブ紙Al-Sharq Al-Awsat編集長ホマイド(Tariq Al-Homayed)は、ジャーナリズムの品性を傷つけるとしてザイディの態度を非難、次のように論評した。

 「このイラク人記者は、答えに窮するような難しい質問をアメリカの大統領にあびせることもできた筈である…しかし本人は、ジャーナリズムが暴力や悪態を拒否することを忘れ、靴を言葉の代用に使ってしまった。

 この記者会見で我々が見たのは、ジャーナリズムを傷つける行為であった。ザイディが(自分の仕事の)性質を誤解している証拠である。ジャーナリストはジハード戦士ではないし軍人でもない。ジャーナリストの仕事はニュースを伝えることにある。欠陥ジャーナリストが主張するようなことは間違いで、ジャーナリストは国家を代弁せず、(国家の)意志を語ることもない…。

 靴を言葉の代用にするザイディは、サッダム・フセイン時代記者会見など論外であったことを見逃している。更に当時ジャーナリストがサッダム・フセインに乱暴な口をきけば、サッダム一族が束になって本人を排除し、極刑にせよと要求したのであろう」※26。

 前出アリ・イブラヒムは、靴投げ事件に対するアラブ世界の熱狂的反応に驚いたと書き、次のように主張した。

 「靴投げ記者≠フ行為より更に奇異なのが、靴投げに対する反応である。輝かしい行為≠ネどと称えているのは異様である。この一連の反応は、抑圧された(心理的)障害を意味していると言える。それは、事件に関するジョークが乱れ飛んだことにもあらわれている。我々が靴投げ戦争へ向かっていることを意味するのかも知れない…政党や政治団体であれば、それぞれ主義主張があり、靴投げに共鳴するのなら、それはそれでその立場が判る。しかし判らないのは、何故この行為がジャーナリスト達によって黙認されるのか、である。ジャーナリストは、この種の抗議が、彼等の職業倫理に反し、それを傷つけることを認識すべきである」※27。

 カイロのアル・アハラム政治・戦略研究センターの所長サイード博士(Dr.Abd Al-Mun'im Sa'id)は、前出ロンドン発行紙Al-Sharq Al-Awsatのコラムニストであるが、アラブメディアにおける靴投げ事件のあおりたてを、次のように分析している。

 「先週はムンタザル・ザイディと彼の靴でもちきりであった…場所が場所であっただけではない。アラブのホームランド≠湧きたたせた反応は凄かった…この事件は、(アラブ共同体が)英雄を求めていることを明らかにした。バグダッドでは国民が通りに出て国旗や靴をふりかざして騒いだ。いやアラブ世界全体がそうであった。一番興奮して大騒ぎしたのは、アラブの衛星テレビである。靴がザイディの手を放れブッシュの顔面に向かって飛行するさまを繰り返し何百回と放映した…これで判るように、アラブは…その恥を洗い流して名誉を回復するため、今尚英雄と救世主の出現を待ち望んでいるのである…。

 サラーフ・アッディーン(サラディン)のような人物の登場を願う英雄待望論が、昔からあった。英雄が出現し全人民を結束せしめ、ハッティンのような勝利に導くのである※28。我々は、かけがえのない救世主の出現を待ちわびてきたのだが、遂にムンタゼル・サイディというつつましやかな英雄が、剣の代りに靴をひっさげて登場したのである。作家や知識人まで諸手をあげて歓迎し、ここに前代未聞の満場一致が見られることになった。カイロの諸紙は、滅多に意見の一致がないが、この時ばかりはこぞって同じ路線で一斉に賛美し、一面トップの大見出しでとりあげ、論説やら解説やらで飾りたてた…ターゲットになったのが、負け犬のアラブの指導者ではなく他国の大統領であり、攻撃手段が映画やテレビ番組或いは記事ではなく、靴であっ…この靴なげでアラブは溜飲をさげ、日頃の鬱憤を晴らしたのである…(しかし)鬱憤の底にある無力感が力に、言葉が行動に置換されるまで、状況は変わらないのである。アラブがいくら靴を投げても何もならない」※29。

2社会の熱狂はアラブの弱さを示す―エジプト紙

 エジプト半官紙Al-Ahramのコラムニストであるアリヤン('Imad 'Aryan)は、ザイディのフラストレーションは判るとしながらも、行為は職業人としてふさわしくないとした。更に本人の行為に拍手喝采する社会の熱狂ぶりは、アラブの弱さを示すものとし、次のように論じた。

 「イラクの記者がしたことは、プロとしてのルールに反する。このような(高い)レベルの記者会見に出席するジャーナリストは、たとい相手がフラグ・カンであっても※30、プロとしてルールに従わなければならない…それより更に異様なのは、大西洋から(ペルシア)湾岸までアラブ共同体を包みこんだ感情移入と熱狂ぶりである。この事件をアメリカに対する勝利とか、イラクを占領し4分5裂した(アメリカに対する)復讐と考えたのである…それは間違っている。アラブは論争という習慣から逸脱して、我々の問題を(解決する機会を)逸してしまった…政治煽動に走り、法とルールから逸脱するのが我々の常套手段である…この高揚感はアラブ世界を包みこみ、アラブのなかには勇気勲章を授け、或いは靴に10万ドルを提供する者もあらわれた。この熱狂ぶりは、多くの分野で救い難いお手上げ状態にあることを物語る―ザイディの靴がまるで自国解放と諸問題解決の唯一の手段であるかのように、靴をあがめたてまつるのである」※31。

3靴をペンに換えるな―スーダン紙

 スーダンの半官紙Al-Rai Al-'Amのコラムニストであるシーラ(Fath Al-Rahman Shila)は、次のように主張する。

 「ジャーナリストが靴をペンの代用にしたのは、弱さと破綻の明らかな兆候である…靴を使った宣伝は無規律なのであり、ガンのように広がる前に処置しなければならない。何もしなければ、言葉を以て権利と義務を守る者がひとりもいなくなってしまうだろう…アメリカのイラク占領について、人それぞれに言い分があるかも知れないが、現存する唯一の超大国、自由と民主々義の国の大統領ジョージ・ブッシュの言葉を借りれば、それは容易なことではなかったが、必要であった。アメリカ占領前のイラクの状況を考えれば、イラク人民が処刑人のムチに苦しんだことを思いおこせば、(サッダム・フセインが)世界一残忍な暴君であったことが判るだろう…この愚かな行為を寿ぎ、何万ドルもの金を寄付する人がいるが、安っぽい宣伝と精神破綻を示している。ガザの包囲、ミルクの欠乏に苦しむ子供達、或いはヨーロッパからの医薬品到着を待ち望む病人(のことを考えれば)、何百万ドルもの金があるのなら、敗北主義讃美宣伝ではなく、パレスチナやソマリアの貧しい人々に与えた方がよいのではないか。アメリカは黒人を大統領選んだ。アメリカの民主々義という誇らかな塔を、我々はアラブの地に見たことがあるか?」※32。

4靴を投げて死刑にならないのは民主主義のおかげ―改革派サイト

 リベラル派サイトのwww.elaph.com は、ザイディ非難記事を数本掲載した。例えば「これこそ我々に欠けていた自由」と題する記事で、著書のハビブBasem Muhammad Habib)が、本事件はブッシュのイラク政策の成功を物語るとし、次のように書いた。

「靴投げ讃美は、状況が正しい方向へ進んでいる確かな証拠である。まともな市民生活を送り、或いは指導者を譴責することなど、イラク人民にとって夢のまた夢であった。しかし今日、これまで発揮できなかった勇気を以て行動できる。民主々義のおかげである。(靴投げを)占領者に踏みにじられたイラクの名誉の勝利と見る者は、ブッシュを初めとする当の占領者が、このようなことを可能にする状況をつくった事実に考えがいかない。無視している」。

同じElaphコラムニストのジャワッド(Walid Jawwad)は、次のように主張する。

「このような卑劣な行動をとれば、(サッダム・フセイン)支配下でなら殺されたか拷問にかけられたであろうが、ザイディはそのような扱いをうけなかった。この事件でアメリカの姿勢は微動だにしないだろうし、(進歩の道をあゆむ)イラク人民の決意に対する我々の信頼もゆらぐことはない。しかしザイディは、ジャーナリズムとイラク国家そしてアラブのしつけ教育の品格を汚した、責任をとらなければならないのである」※33。

靴投げ讃歌―ザイディに捧げる詩

 ザイディ支持は、詩歌の形でも表明され、勇敢な行為を讃える歌がつくられた。その内の2編を紹介する。最初は「靴物語」と題し、バハレーン紙Al-Waqtに掲載された。サウジ労働相で前駐英大使クサイビ(Ghazi Al-Qsaibi)作と伝えられる※34。

敵来たり、死と死体をつかんで門前に立つ

撃て、偽善者共の顔を靴で撃て マリキはブッシュの靴と大同小異

ユダヤ人が賢いと言う世界で、知恵の言葉は無用

イラク議会は女だらけ、そいつらの顔に屈辱の刻印を押せ

指導者が敵の尻尾になれば、人民が戦う

アッラーの祝福があらんことを

私は神かけて誓う

そなたの輝しき行為が、満天の星を動かすことを

靴が悪人共の前に立ちはだかるまで

その靴の価値が判らなかった…※35。

もうひとつは前レバノン議員カンディル(Nasser Qandil)の作詩

二人の大統領は別れの抱擁を始め、記者達はペンを握る

ザイディはかがんで靴をとり、式典開始を告げる

ザイディは靴を投げ、その声は轟く雷鳥の如く

記者は己の靴で記事に署名し、喪失の時に

終止符を打った※36。

靴投げ風刺漫画

 アラブの新聞には、靴投げ関連の風刺漫画が沢山掲載された。ブッシュに対する送別用贈物、ブッシュとアメリカをおとしめるための侮辱、アラブの大量破壊兵器としての靴などが、モチーフになっている。サッダム・フセインとブッシュに類似性を持たせた風刺もある。前者は、アメリカの占領初期にみられた立像引き倒し、後者が任期末のブッシュに対する靴投げの構図である。解放者として歴史に名を残す願望が、汚辱の記録に変って歴史に残るという風刺もある。一方靴にとりつかれたアラブメディアの脅迫観念を風刺する姿勢があることも、忘れてはならない。

1 「忘れ難き12月14日事件」作イマッド、ハジャッジ

 掲載紙2008年12月16日付Al-Ghad (ヨルダン) 及びAl-Quds Al-'Arabi (ロンドン)



2 「ブッシュにふさわしい世界の贈物」

掲載紙20081219日付Akhbar Al-Khalij (バハレーン)

3 「イラクから愛をこめて」作スタブロ・ジャブラ

掲載紙20081216日付Al-Balad (レバノン)




4 「ブッシュを狙った靴―アメリカを打撃」作ニダル・ハシェム

掲載紙20081217日付Al-Ghad (ヨルダン)



5 「抵抗だ」作 ハサン・ブライベル

掲載紙20081216日付Al-Mustaqbal (レバノン)



6 「撃て」作 アメル・ゾアビ

掲載紙20081217日付Akhbar Al-'Arab (首長国連邦)

7 右「これがブッシュのいう大量破壊兵器か?」、左「いや。これはお別れギフト」

掲載紙20081216日付Al-Ahram (エジプト)


8 「ブッシュ:遂にイラクの大量破壊兵器を発見しました」作 ジハード・アワルタニ

掲載紙20081217日付 Al-Watan (サウジアラビア)

9 右「バグダッド2003年」、左「バグダッド2008年」作アブダル・カデル・アヨウブ

掲載紙20081216日付Al-Jarida (クウェート)



10 「これが末路だと判っていたら、やるんではなかった」作ジャラル・リファイ

掲載紙20081216日付Al-Dustour (ヨルダン)

11 「ブッシュ胸像」作イマッド・ハジャッジ

掲載紙20081217日付Al-Ghad及びAl-Quds Al-Arabi




12 「記者会見」作アブダッラー・ダルカウィ

掲載紙20081216日付Al-Dustor (ヨルダン)



13 「言った通りでしょう、オバマさん。何も心配いりません」作、ムハンマド・マソード

掲載紙20081217日付Al-Watan (サウジアラビア)



14 「靴にとりつかれたアラブメディア」作アムジャド・ラスミ

掲載紙20081217日付Al-Awsat (ロンドン)

*D.ハザンはMEMRIの研究員

※122009年3月12日付www.asawataliraq.info

※2 2009年2月3日付(ロンドン)Al-Sharq Al-Awsat

※3 2009年2月5日付http://finance.walla.co.il/?w=/2/1430647

※4 2009年3月9日付Al-Sharq Al-Awsat

※5 2008年12月16日付同上

※6 2008年12月15日付www.aswataliraq.info

2008年12月16日付Al-Jarida(クウェート)

※7 2008年12月17日付Al-Khalij(首長国連邦)

※8 2008年12月15日付www.aswataliraq.info

※9 2008年12月16日付Al-Sharq Al-Awsat

※10 2008年12月17日付Al-Hayat Al-Jadida(PA)

※11 2008年12月15日付www.middle-east-online.com

※12 同日付www.alarabiya.net

※13 www.aljeeran.net/wesima_extra/popups/printarticle.php?id=136648

※14 2008年12月15日付Al-Watan(シリア)

※15同日付www.champress.net

※16 2008年12月18日付Al-Khaleej(首長国連邦)

※17 2008年12月16日付Al-RaiAl-‘Am(スーダン)

※18 2008年12月17日付Al-Intibana(スーダン)

※19同日付Al-Khalij(首長国連邦)

※20 2008年12月16日付Al-Gumhouriyya(エジプト)

※21同日付Al-Akhbar(同上)

※22 2008年12月15日付www.ikhwanonline.com

※23 2008年12月16日付Al-Hayat(ロンドン)

※24 同上

※25 同上

※26同日付Al-Sharq Al-Awsat

※27同上

※28 ハッティンの戦いは1187年に生起し、サラフアッティン軍が十字軍を破り、エルサレムの十字軍王国崩壊のきっかけをつくった。

※29 2008年12月24日付Al-Sharq Al-Awsat

※30 フラグ・カン(ジンギス・カンの孫息子)は13世紀におけるモンゴルの支配者。バグダッドを含む南西アジアを征服し、バグダッドを焼いた。

※31 2008年12月17日付Al-Ahram(エジプト)

※32 2008年12月21日付Al-Rai Al—‘Am

※33 2008年12月16日付www.elaph.com

※34 本人はこの詩とは関係がないと主張している。

2008年12月23日付Al-Sharq Al-Awsat

※35 2008年12月21日付Al-Waqt(バハレーン)

※36 2008年12月17日付Al-Watan(シリア)


 

 

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