メムリ(MEMRI) - 中東報道研究機関 調査および分析シリーズ
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THE MIDDLE EAST MEDIA RESEARCH INSTITUTE

調査および分析シリーズ


 
Inquiry and Analysis Series No 307 Dec/16/2006

イラン政権のイデオロギーと戦略に組みこまれたホロコースト否定の役割
イガル・カルモン

2006年12月14日、エルサレムのホロコースト記念館ヤド・ヴァシェムで、「ホロコースト否定―ジェノサイドの準備過程」と題するシンポジュウムが開催された。このシンポジュウムで、MEMRI創立者で会長のイガル・カルモンが講師のひとりとして講演した。また、ホロコーストを否定するイランのテレビ番組も上映された。この番組を画像で見る場合は下記を参照。

mms://207.232.26.152/events/IRANHOLOCAUST.WMV

講演内容は次の通りである。

イランの大統領アフマディネジャドが執拗にホロコースト否定をつづけていることから、その真意を問う必要が生じた。つまり、イラン政権のイデオロギーと戦略にこの否定がどうはめこまれているのか、その役割は何かということである。イスラエル国の将来にとって、この疑問に答えることが、極めて重要である。

中東報道研究機関(MEMRI)は、大統領アフマディネジャドを初めとするイラン政権幹部の発言を蒐集、分析しているが、そこから二つのゴールが見えてくる。この二つをたどると、同じ結論に到達する。即ち、イラン政権のホロコースト否定運動は、不条理な増悪の表出ではなく、そのゴールを達成するための、冷血且つ計算づくの行為なのである。

イスラエルの正当な存在権の否定

そのゴールの第一は、イスラエルの建国と存続の合法性を拒否し、正当な存在権を否定することにある。ホロコースト後のユダヤ人の避難地としてのイスラエルを否定するのである。そのためアフマディネジャドは、ホロコーストはなかったと唱える。そして「第二次大戦でユダヤ人が本当に苦しんだとしても、勿論その主張は客観的′、究で立証されなければならないが、この大戦では他者も苦しんでおり、その経験と変わりはない」と主張したのである。アフマディネジャドを初めとするイラン政権の幹部達は、こんな神話≠ナ、パレスチナにおけるイスラエルの建国を正当化するわけにはいかない、と主張する。

シオニスト国家イスラエルの抹殺

第二のゴールは、アフマディネジャドが頻繁に主張しているように、イスラエルの抹殺≠ノある。彼のホロコースト否定は意図的で、計算づくである。世界がホロコーストを記憶している限り、ユダヤ人皆殺しのジェノサイドを新たに計画しても、その世界が抵抗する。そこに気付いているアフマディネジャドは、自分のゴールを達成するためには、ホロコーストの記憶を抹殺することが肝腎と考える。

悪の権化視操作

自分の計画をうまい具合にすすめるために、アフマディネジャドはいくつかのステップを踏む必要がある。まずユダヤ人とイスラエル国を悪の権化としてきめつけなければならない。我々がよく知っているように、ヒトラーはユダヤ人の大量殺戮に着手する前に、ユダヤ人を諸悪の根源とするキャンペーンをやった。アフマディネジャドとイラン政権は同じ道をたどり、ユダヤ人を悪の権化に仕立てる毒々しい反ユダヤキャンペーンを展開している。

そのキャンペーンの一環として、国家の統制下にあるイランのテレビ局は、ユダヤ人を諸悪の根源とする番組をシリーズで放映している。古典的な血の中傷など定番物である。過越祭用のマツォト(種なしパン)に混入するため非ユダヤ人の子供の誘拐しその血を抜きとるとか、非ユダヤ人の子供の臓器をとるため誘拐するといった類の話を、番組にしているのである。ユダヤ人は豚とか猿と呼ばれ、亜人間扱いをされる。ブードウ教的呪術の儀式場面で預言者ムハンマドを迫害する番組、十字架のイエスを思わせる歴史的人物を苦しめる番組。この一連のテレビ番組は、ホロコースト否定番組と平行して放送される。

この種一連の行為は、決して個々ばらばらにとられているのではない。国の最高レベルで統制され、方向づけがおこなわれている。アフマディネジャドが、権力を手中にした後最初にやったのは、テレビプロデューサー達との会合であった。何とも示唆的な動きである。

ユダヤ人とイスラエルを諸悪の根源に仕立てる行為は、前述のように、抹殺のための前段として大変重要なのである。しかしながら、ユダヤ人がホロコーストの犠牲者とみられている限り、悪の権化に仕立て上げることができない。つまり、ユダヤ人がホロコーストの犠牲者とみられている限り、悪の権化視は根づかない。そこで、犠牲者としてのユダヤ人像を消し去るために、ホロコースト否定が肝要になる。

以上の理由により、ホロコースト否定、イスラエル国の抹殺、諸悪の根源視が三点セットでアフマディネジャドら政権幹部の発言、声明にいつも顔を出す。

イラン人自身が自分の口で語った話は、これまで個々ばらばらに報道されてきたが、これをまとめて聴くと、ひとつの方向に統一されて表明されていることがよく判る。つまり、イラン政権のイデオロギィーと戦略の枠組で表出され、役割の一端をになっているのである。

2005年10月23日に開催されたイランの「シオニズム無き世界」会議で、アフマディネジャドはイスラエル国の定義をおこなった。それによると、イスラエルは絶対悪であり、ムスリムを支配しようとする欧米の手先である。アメリカとシオニズムの存在しない世界を本当に招来できるのかと問われて、アフマディネジャドは「このスローガン、このゴールは達成可能であり、必ず達成されることを知っておくべきだ」と答えた。

アフマディネジャドは後段でホメイニに言及し、「尊師は、クードス(エルサレム)を占領している体制は、歴史の頁から抹殺されなければならない≠ニ言われた」と述べ、「これはまことに思慮深い言葉である。パレスチナ問題は我々が妥協できない問題なのだ」とコメントした。その後アフマディネジャドは「この汚点(イスラエル)はイスラム世界の中心から除去しなければならない。勿論それは可能である」と語った。この演説は究極目的即ちイスラエルの抹殺を明言している。

2005年12月初旬メッカで開催されたイスラム会議機構会議で、アフマディネジャドはホロコースト否定とイスラエル抹殺を明確に関連づけて、次のように言った。

「ヨーロッパ諸国は、ヒトラーが迫害されたユダヤ人数百万を焼却炉で殺したと主張する。この点に執拗にこだわり、誰かが反対のことを証明すると裁判にかけ牢屋にぶちこんでしまう。我々は虐殺話など受入れないが、本当だと仮定して、ヨーロッパ人にたずねてみようではないか。迫害されたユダヤ人がヒトラーに殺されたからといって、エルサレム占領政権の支持を正当化できるのか?…」。

アフマディネジャドのこの発言は、意味が奈辺にあるかを雄弁に物語る。即ち、ホロコーストは、イスラエルの存在を正当化するだけのもの、と言いたいのである。それは二つの意味を内包している。

a ホロコーストは神話である。b たとい本当であっても、それを以てイスラエルの存在を正当化することはできない。いずれにしても、アフマディネジャドの主たる強迫観念は、ホロコーストではなく、イスラエルの存在そのものにかかわっている。この究極の目的にホロコーストが立ちふさがっているのであれば、これを否定して排除しなければならないのである。

アフマディネジャドは、この時の演説の後段で、「君達(ヨーロッパ人)がユダヤ人にいけないことをしたと考えても、ムスリムやパレスチナ人が何故その代償を払わなければならないのか。よろしい君達が(ユダヤ人を)を迫害したとしよう。ならば、何故ヨーロッパの一部をこのシオニスト体制に与えないのか…」と述べた。ここにも、イスラエルは存在できないというのがガイドラインになっている。ホロコーストがイスラエルの建国と存続に道義的正当化を付与すると考えるので、アフマディネジャドは何としてでも、ホロコーストを否定したいのである。

会場でDVDを上映したのでお判りのように、2005年12月14日の演説で、アフマディネジャドはこの二つの要素をここでも結びつけている。彼はホロコーストを神話≠ニ呼ぶが、第二次大戦で君達(ヨーロッパ人)がユダヤ人を600万人殺した…罪を犯したと言い張るのなら、君達の土地を分け与えればいいのでないのか。ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、アラスカに場所があるではないか≠ニつけ加えるのである。これでも判るように、アフマディネジャドにとってホロコースト否定は、イスラエルの存在を非合法化する手段として大事なのである。究極の目的はイスラルの抹殺にあるから、諸悪の根源視に必要な要素が、ちゃんと演説に含まれている。

それからイランの大統領は、ユダヤ人が犠牲者ではなく本当の迫害者であると、躍起になって主張し、「シオニズム自体欧米のイデオロギーで植民地主義者の考え方だ。世俗的思想にファシスト手法を組み合わせたもの、イギリス人がつくりあげた代物だ。これまでアメリカと一部ヨーロッパの直接指導と支援を得て、(シオニズムは)ムスリムを虐殺している」と述べ、その後段で「当時(第二次大戦)彼等(欧米)がどんな罪を犯したか、シオニストは今日どんな罪を犯しているか。欧米諸国とメディアは、はっきり答えなければならない。要するにシオニズムは新しいファシズムということだ」と言った。

アフマディネジャドに言わせれば、シオニストこそ本当の迫害者、虐殺者である。その本人は、シオニストと普通のユダヤ人を区別すると主張するが、これもあやしい。この悪の権化視キャンペーンでは、歴史上ユダヤ人に向けられてきた中傷や誹謗をそっくり使っているのである。つまり、迫害者で虐殺者はシオニストのユダヤ人だけではない、とアフマディネジャドは陰に陽に主張するのである。

DVDで御覧になったように、アフマディネジャドは、ユダヤ人がホロコーストを犯したと唱える。彼によると、イエーメンのユダヤ王ヌワス(Yosef Dhu Nuwas)が初期キリスト教時代に、キリスト教徒を焼き殺したとか、エステル記でもイランのユダヤ人がやったと書いてあるとし、ユダヤ人は近現代でも、過越祭のマツオットに練りこむため、ロンドンやパリでキリスト教徒の子供を大量に虐殺して血を抜きとっていると主張するのである。

要すれば、ホロコースト否定は、悪の権化視と二人三脚でつくられ、その先にイスラエル抹殺という究極のゴールが設定されているということである。

テヘランで開催されたホロコースト否定会議へイラン政府に招かれた参加者達は、これまで指摘した傾向の人物ばかりであった。まず第一に全員がイスラエルの存在権をはっきりと否定している。反シオニストで世俗国家イスラエルを否定するユダヤ人集団ネトレイ・カルタのメンバーが招待されたのは、そこに理由がある。ユダヤ人を諸悪の根源として抹殺を正当化する人物も、当然招待された。ホロコースト否定者のひとりフレデリック・トベンは、勿論ホロコーストを否定するだけでなく、ユダヤ人が意図的にエイズをアメリカで拡散させていると主張する。

ホロコースト否定会議におけるアフマディネジャドの演説は、イラン政権のイデオロギーと戦略の中にホロコースト否定の役割を組みこんだことを、はっきり物語っていた。会議の冒頭アフマディネジャドは、出席したホロコースト否定者達に対して、「イランは君達の家である。ここでなら君達は、友好的且つ自由な雰囲気の中で、自由に意見が言える」と述べ、まばたきもせず語をついで、「シオニスト体制の生命曲線はさがり始め、今や一瀉千里の勢いで落ちている…断言してよい…シオニスト体制は抹殺され、人類は解放されるのである」とつけ加えた。

イランのホロコースト否定をMEMRI TVの画像で見る場合は、次を参照。

http://www.memritv.org/Search.asp?ACT=S5&P1=156

イガル・カルモンは中東報道研究機関(MEMRI)の会長。


 

 

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