メムリ(MEMRI) - 中東報道研究機関 調査および分析シリーズ
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THE MIDDLE EAST MEDIA RESEARCH INSTITUTE

調査および分析シリーズ


 
Inquiry and Analysis Series No 542 Sep/14/2009

ガザのイスラム首長国の興隆(と衰退?)
筆者:ダニエル・ラブ(Daniel Lav)*

メムリ・ジハードとテロ・モニター(MEMRI Jihad and Terrorism Monitor、JTTTM)は先週、ガザ南部のラファフでハマースとサラフ・ジハード主義者との間に対立が起きていると伝えた唯一のニューズソースだった。(「ラファフの金曜礼拝でアルカーイダ支持者とハマースが衝突の恐れ、ファタハ支持者は騒乱参加を誓う」。2009年8月13日、

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はじめに

2009年8月14日、急進的なイスラム法学者アブドルラティーフ・ムーサー(’Abd Al-Latif Musa)、別名アブーヌール・マクディシ(Abd Al Nur Al-Maqdisi)は(ガザ地区南部)ラファフのイブンタイミーヤ・モスク(Ibn Taymiyya Mosque)の説教壇からハマースを非難。同時に、パレスチナにおけるイスラム首長国(Islamic Emirate)の形成を宣言した。また、銃器を持つ者たちに対して「イブンタイミーヤ・モスクの軍事司令部」に入隊するよう呼び掛けた。礼拝の後、ハマースの治安部隊が、反乱派が陣取った(イブンタイミーヤ)モスクと周囲のビルを包囲した。戦闘が終了した後、アブドルラティーフ・ムーサー、それにハマースの軍事指揮官を含め22人が死亡した。他に数十人が負傷した。※1

この対決の直近の原因は、全くローカルなものだった。ハマースはアブドルラティーフ・ムーサーに対し、イブンタイミーヤ・モスクをハマース政府の宗教財産省に引き渡すよう要求した。これはイスラム法学者の独立性に対する攻撃だった。このため、この急進的な説教師は対決姿勢を取り、金曜礼拝に出席してモスクを守るよう支持者に呼び掛けた。アブドルラティーフは、モスクの防衛が成功すると希望していたかもしれない。しかし、自分自身の結末が死であることは分かっていたに違いない。事実、8月11日支持者に対する訴えで「(アッラーへの)服従における死は(アッラーへの)不服従における死にまさる」と語っていたからだ。※2


写真説見:イブンタイミーヤ・モスクにおける金曜礼拝に出席するよう呼び掛けるオンライン・ポスター

この事件は短時間で終わり、問題自体もローカルなものだった。しかし今後長期に、ガザと、ジハード主義運動全体の双方に重要な意味を持つ可能性がある。アブドルラティーフ・ムーサーはラファフ以外のジハード主義世界では大物ではなかったが、ラファフでは人気のある説教師だった。彼がハマースの手にかかって“殉教した”ことは象徴的な契機━ハマースの人気の衰退と(その一方での)ローカルなサラフィー・ジハード主義運動の成長の象徴的な契機━になりそうだ。

この事件の、ジハード主義運動全体にとっての意味は、同事件が乖離━過度なほどハマースに反対するジハード主義の「草の根」と、最近パレスチナ運動に懐柔的なジェスチャーを示したアルカーイダ指導部との間に既に存在する乖離━を極めて悪化させたことだ。※3 アルカーイダの上級指導部は現在困難な立場━路線を逆転させ、反ハマース活動を支持するか、さもなければ、筋金入りの支持者を失う危険に直面するか、困難な立場━にある。彼らは反ハマース活動を(イスラム主義運動間に分裂を招く)エネルギーの浪費と見なしてきた。もっとも実際のところ、アルカーイダ上級指導部は、この問題に関する主導権を、ヨルダン在住の無所属のジハード主義イスラム法学者アブームハンマド・マクディシ(Abu Muhammad Al-Maqdisi)らに奪われたように見える。


写真説明:パレスチナのイスラム首長国の誕生を祝うアンサール・ムジャーヒドゥン・フォーラム(Ansar Al-Mujahideen forum)のオンライン・ポスター;右のオレンジ色の衣服を着た人物がアブドルラティーフ・ムーサー師

イデオロギー分裂のルーツ:サラフ・ジハード主義者とムスリム同胞団

アルカーイダは、しばしばサラフ・ジハード主義と呼ばれる運動に属する。サラフ・ジハード主義運動の形成に影響を与えたのはムスリム同胞団のイデオローグ、サイイド・クトゥブ(Sayyid Qutb)だった。クトゥブはムスリム同胞団の急進化を代表する人物だったが、後に同胞団の最高指導者「総ガイド」たちはクトゥブの急進主義を否定した。今日、サラフ・ジハード主義者は同胞団に執拗に反対する敵となった。例えば(アルカーイダのナンバー2)アイマン・ザワーヒリ(Ayman Zawahiri)はムスリム同胞団に反対する辛らつな著書「苦い収穫」を書いている。

この論争のルーツとなっているのは、ムスリム同胞団が信条の点で多様であり、手段の選択でプラグマティックなことだ。対照的にサラフ・ジハード主義者は信条の点で、ワッハーブ派に近い厳格な立場を取る。この事実は、サラフ・ジハード主義者がプラグマティズムに傾く可能性を大きく制限するものだ。サラフ・ジハード主義者は民主主義と選挙を一種の背教行為と見なし、シャリーア実施の漸進主義を拒否する。彼らは、シャリーアが命じていると見てとると、他のムスリムを背教者と誇らしげに断罪する。

ハマースは、母組織であるムスリム同胞団とも若干異なっている点がある。ハマースは対イスラエル戦争というパレスチナ人の文脈の中で、そのアイデンティティーを形成してきた点だ。また、ハマースは(パレスチナ人で、アフガニスタン戦争のイスラム義勇兵の指導者)アブドッラー・アッザーム(’Abdallah ‘Azzam)といった人物を通じてサラフ・ジハード主義者と一部共通した歴史も持つ。しかし、近年ハマースはパレスチナの選挙に参加し、パレスチナ議会に議席を獲得した。これらは、サラフ・ジハード主義者が一般的に背教と見なす行為だ。(この傾向は、オスロ合意によってパレスチナ自治政府が樹立された後、一段と強まった)。加えて、ハマースは2007年のクーデターで(ガザ地区の)権力を掌握した後も、イスラム首長国を宣言しなかった。例えば、司法制度は依然シャリーアに基づくものではない。これやあれやの理由から、サラフ・ジハード主義、とりわけガザ地区の同主義者は、ムスリム同胞団に対してと同様、ハマースに対してもほぼ敵対的になった。※4

ラファフ蜂起に対するジハード主義者の反応

ここでわれわれは、ジハード主義者を4つのグループ(1)ガザのジハード主義グループ(2)無所属のジハード主義イスラム法学者(3)ジハード主義フォーラムのモデレーター(調整者)(4)ジハード主義インターネット「草の根」――に分類し、それぞれのグループの、ラファフの事件に関する反応と、ハマースに関する最近の見解を概観しよう。また、ラファフ事件とハマースに対して今後取るべき適切な立場をめぐり、ジハード主義者のポピュラーな意見とアルカーイダ指導部間に起きそうな抗争の初期の兆候を取り上げよう。

ガザのジハード主義グループ

ガザで活動していると主張するジハード主義グループの実態はよく分からない。ラファフの事件で初めて出現したグループもある。以下は、最近の(ラファフの)事件に関わった、あるいは反応を発表したグループの概観である。最も密接に関わったように見えるのは、ジュンド・アンサール・アッラー(Jund Ansar Allah)である。比較的新たなジハード主義グループで、最近イスラエル兵士に対する攻撃で名を上げた。※5 ラファフの決定的対決の直前、支持者にイブンタイミーヤ・モスクでの礼拝出席を呼び掛けた。※6 パレスチナにおけるイスラム首長国の宣言を行った直後、直ちに、アブーヌール・マクディシに忠誠を誓い、パレスチナの独立した(政治)構造を解体し、首長国に組み入れると宣言した。※7 しかし、ラファフの決定的対決の後でもなお、ハマースとの抗争回避を希望している。ハマースの内相ファトヒ・ハマド(Fathi Hamad)はジュンド・アンサール・アッラーがこれまでガザのパレスチナ標的を攻撃してきたことを非難したが、同グループはハマースとの闘いには関心がないと表明、ハマースの発言はプロパガンダに過ぎないと退けた。※8 しかし、同グループはこれまで、自グループのメンバーの殺害や逮捕を抑止するためハマースに脅しを掛けたことがある。※9


写真説明:ジュンド・アンサール・アッラーのシンボル

ジャイシュ・イスラム(Jaysh Al-Islam)は、ガザ市サブラ地区のドゥグムシュ(Dughmush)氏族を主体にしたサラフ・ジハード主義グループである。たぶん数的にはガザ地区の最も重要なグループである。また、最もよく装備されたグループでもある。しかし、同グループのイデオロギーの純粋性に疑いを持つ人々もいる。※10 ジャイシュ・イスラムはBBCの記者アラン・ジョンストン(Alan Johnston)を誘拐したことで最も有名だ。※11 また、これまでハマースに戦いの脅しを掛けたが、ジュンド・アンサール・アッラーと同様、ハマースがジャイシュ・イスラムに対して行動を起こさないよう抑止する脅しだった。※12 (この抑止策は効果があったようには見えない。というのも、両グループは2008年秋衝突している)。ジャイシュ・イスラムはラファフ事件について公式な反応は発表していない。しかし、ファッルージャ・フォーラムに極めて頻繁にコメントを掲載しているドゥグムシュ名の人物は、市民にハマースの敷地や警察には近づかないよう警告し、これらの場所が彼らの攻撃目標であることを暗示した。※13 さらに、ドゥグムシュ氏族がコントロールするガザ市の1区画をハマースが包囲したとの報道もあったが、結末ははっきりしない。※14


写真説明:ジャイシュ・イスラムのエンブレム

カティーバト・スユーフ・ハック(Katibat Suyuf Al-Haqq)、つまり「真実の剣大隊」はラファフの事件を機に名乗りを挙げた新たなグループである。ガザ地区の北東ベイトハヌーン(Beit Hanun)を根拠地にしていると主張している。8月16日インターネットに、アブーマーリク・シマーリー(Abu Malik Al-Shimali)と名乗る人物が署名したコミュニケを掲載した。この声明で、新たなイスラム首長国に忠誠を誓い、またムスリムに対し、ハマース指導部が出入りしている警察署、治安部隊事務所、モスクや他の建物に近づかないよう警告し、これら建物が攻撃目標になると示唆した。※15

「真実の剣大隊」は同じ8月16日に掲載した2つ目のコミュニケで、ハマースのスパイ4人を誘拐したと主張し、こう述べた。同大隊が首長国に対する忠誠を誓った一つ目のコミュニケを発表すると、ハマース政府は、同大隊の情報収集のためスパイをベイトハヌーンに送り込むよう“背教の警察”に命令した。これらスパイは8月15日の夜、同大隊の隠れ家のひとつを襲撃しようとした。コミュニケによると、同大隊メンバーは逃走に成功した。(反撃に出た)同大隊はスパイの家の在り処を見つけ出し、スパイのうち4人を誘拐した。同コミュニケは、これら4人が殺害され、「アッラー、預言者、信徒と戦う者たちの血がガザの通りを流れるだろう」と脅した。※16

ラファフ蜂起の後登場したもうひとつのグループに、ジャマアト・タウヒード・ワ・ジハード-バイト・マクディシ(Jama’t Al-Tawahid Wa’l-Jihad―Bayt Al-Maqdis)(「パレスチナの唯一神教・ジハード集団」)がある。今後極めて重要な意味を持つグループである。名前の「唯一神教とジハード」は、影響力の強いジハード主義のイスラム法学者ムハンマド・マクディシが自分のウエブサイトwww.tawhed.wsのために使っている名前だ。このウエブサイトはマクディシの演壇であることに加えて、ジハード主義全般の著述活動の中心的なオンライン・ライブラリーとなっている。たぶん、ジハード主義者は誰であれ、マクディシがかつての弟子(で、イラク・アルカーイダの初代指導者)アブームスアブ・ザルカウィ(Abu Mus’ab Al-Zarqawi)を批判したことを知っている。ザルカウィが自分のイラクの組織のために師の許可なく「一神教とジハード」の名前を使ったためだ。※17(この組織は後に「イラク・アルカーイダ」になり、さらに「イラク・イスラム国(ISI)」になった)。このことでひとつの疑問が生じる。新たな「パレスチナの一神教とジハード」がこの名前を勝手に使ったのか、それともマクディシの祝福を得たかという疑問だ。もし後者なら、同グループは、その旗の下にさまざまなガザのジハード主義グループを統一する可能性がある。ジハード主義グループの統一は、マクディシがかつて促したことでもある。※18 ひとつの消息筋は、マクディシが事実、同グループを承認したと主張する。※19 マクディシは一般的に、自分のウエブサイトが彼を代弁する唯一のソースだと主張する。この一方で他のチャンネルを使っている可能性もある。(とりわけヨルダン当局に対する)信頼できそうな関係否認証明を維持するためだ。この理由のため、この新しいグループとその意向を詳しく知るのは意味のあることだ。

「一神教とジハード」は、2009年8月16日、2つのコミュニケを発表した。最初のコミュニケで同グループの結成と基礎的教義を発表した。同教義はこう言う。一神教は、全ての預言者のメッセージだった。それを達成するため、人はアッラーを信じるばかりでなく、偶像崇拝を廃棄しなければならない。偶像崇拝の形態のひとつが、人間の作った法律である。さらに、この信条の闘士として働くにはジハードが必要である。また、一神教の信条を高く掲げることなくジハードを戦うことは十分ではない。同様に、ジハードを排除し信条だけに集中することは十分ではない。この2つ(一神教の信条とジハード)を結合するために「一神教とジハード集団」は形成された。※20

2つ目のコミュニケの内容は「イブンタイミーヤ・モスクの殺戮」だった。同コミュニケはまず初めに終末論の幾つかのハディースを引用した。その結論は、われわれが世の終わりにあるというものだ。「その(世の終わり)時は、偽りの党が真実の党の身なりで現れる。また、裏切りの党が統一の党の姿で現れる・・・最期には、間違って、また過ってイスラム的と見なされる軍隊がイスラムと戦い・・・人々に、民主主義が世界の主(あるじ)の宗教であるという錯覚を注入する」。このグループ、つまりハマースは、今日、「野蛮にも軽火器と重火器を、真の師、学者、献身的ムジャーヒドゥンの胸に向けている・・・彼らはユダヤ人とキリスト教徒の轍に従おうとして、アッラーの家を包囲し、彼らの重火器(の砲火)で、その中に居た人々の頭にアッラーの家を崩壊させた。仮に、ユダヤ人とキリスト教徒の轍に従うことができないとしても、少なくとも(赤いモスクを包囲した)背教者ペルベス・ムシャラフ(Pervez Musharraf)の轍に従うためだ・・・」。同コミュニケはまたハマースをこう非難した。ユダヤ人との国境を防衛し、対イスラエル攻撃を試みる者たちを逮捕している、ムジャーヒドゥンに対する過ったプロパガンダ闘争を展開している、外国勢力を喜ばせ、テロ組織のリストからハマースを外すためにムジャーヒドゥンに対して戦っている、と。

しかし、「一神教とジハード集団」は(明白にハマースを背教者と断じていながら)自らの決意の概略を述べると時、今ハマースと戦うかどうか、意図的にあいまいな態度を取る。同組織は「ジハードは槍の穂先と共に舌を持つ。われわれは槍の穂先で、ユダヤ人とその支持者に対しジハードを展開する、そして偽善者に対しては舌で、つまり議論と証拠でジハードを戦う」と言う。「一神教とジハード集団」の認識では、ハマースは前者に入るかもしれない。しかし、彼らは、このことを明確にしていない。彼らが強調しているのは現在の出来事が試練━ムジャーヒドゥンがじっと耐えねばならない試練であるということだ。彼らはコミュニケの後半で、ハマースの治安部隊員に脱走を促し、こう警告した。「脱走しなければ、あなた方の運命はもう分かっている。目には目を、歯に歯を、だ。おー、民主主義崇拝者よ、戦いのコースは変わった」と。このコミュニケはたぶん、「一神教とジハード集団」がハマースに対し戦争の礎石を置きつつある、と読める。しかし、戦術的な理由から、近い将来に、ハマース攻撃を計画してはいない。※21

無所属のジハード主義イスラム法学者

ジハード主義宗教指導部の中で最も重要な反応は、今日ジハード主義の最も影響力のあるイスラム法学者、アブームハンマド・マクディシの反応だった。彼はアルカーイダや(その他のいかなる組織とも)組織的な従属関係はない。彼はヨルダンでアブームスアブ・ザルカウィの師だった。しかし、彼はイラクにおけるザルカウィの活動の全てを承認したわけではなかった。最近、マクディシと超急進派━ザルカウィの遺産の永続化を主張する超急進派━との間に論争が持ち上がった。※22


写真説明:アブームハンマド・マクディシ

アブームハンマド・マクディシは8月15日、彼のウエブサイトに掲載した声明で、ハマースが、まさにアラブの諸政権のように振る舞っていると非難した。彼は、彼自身と他のジハード主義の長老たちが支持者たちに向け、ハマースとは衝突しないよう繰り返し呼び掛けてきたと発言。そして、この忠告をガザのジハード主義者たちは受け入れたが、ハマースはジハード主義者攻撃を止めなかったと決め付けた。彼はラファフの事件を厳しく、こう批判した。「今日、アブーアッヌール・マクディシ師と彼の兄弟たち━彼らには、アッラーのみが主であり、アッラーの法の変更は受け入れないと述べたこと以外には罪咎がないのに━彼らから流れた純粋な血と、それ以前に流れたジャイシュ・イスラムの兄弟たちの血。われわれは、これらの血を忘れず、その血を流させた者たちを許さない。これらの者たちを許す権利は、われわれにはないからだ・・・」。彼は通常の教義上のハマース批判に加え、こう非難する。ハマースは独裁制を敷いており、また、イランおよびヒズブッラーとの同盟を拒否する者たちを、その生活が尊敬を得ることのない「10番目の階級の市民」と見なしている、と。こうしたハマース批判にもかかわらず、また、そのレトリックが次第に高まっているものの、マクディシは自分の声明で、ハマースとの戦いには反対し続けると書いている。※23

ラファフの事件について論説を書いた、もうひとりの、非常に影響力のあるジハード主義イスラム法学者は、ロンドン在住のアブーバーシル・タルトゥシ(Abu Baser Al-Tartusi)である。彼の書いたところだと、彼はマクディシと同様、これまで意見を求めた者たちに対し、ハマースとの抗争には入らないよう助言している。彼が明かしたところだと、こう助言した理由は、単にガザの危険な状況に配慮したプラグマティックな理由であり、敵に対してジハード主義者とハマース双方に使用できる弾薬(攻撃材料)を与えないためだった。しかし、ラファフの事件でタルトゥシは沈黙を破った。彼は最近の声明でハマース運動を激しく批判している。


写真説明:アブーバーシル・タルトゥシ

タルトゥシによると、ハマースは他のムスリム同胞団と似て、アッラーの敵に対しソフトであり、アッラーの友人たちに対してハードである。ハマースが戦っているのはサラフ・ジハード主義者である。なぜなら、自組織以外がイスラムの代弁者となることを望まず、また、イラン人、アラブ諸政権、十字軍(西側キリスト教勢力)、ユダヤ人を喜ばすためだ。ハマースはモスクと家屋を破壊し、またムジャーヒドゥンを逮捕し、そうすることでシオニストが行っていること全てを行ってきた。加えてハマースは、隣接のアラブ諸国のように、イスラエル国境の忠実な防衛者となった。これら全てに加え、ハマースは異端者の民主主義を採択した。タルトゥシはこう結論づけた。「善なるもの全般への懸念から、また、われわれの敵に弾薬を与えないために、何時まで私は兄弟たちに対し、じっと事態に耐え、権利の要求を控え、聖なるものの(防衛を)やめるよう求め続けることが出来ようか。(あなた方)ハマース指導部は、重大な不正、そして権利と血(の侵害)を我慢し続ける人々の意欲にも限度があることを知らねばならない。もし事態が手に負えなくなっても、全ての責任はあなた方にある・・・」

タルトゥシは次いでハマースの武装勢力のメンバーに向かい、ハマースに留まり、ハマースを支援し続けることは、シャリーアが禁じていることだと言う。※24

マクディシとタルトゥシに共通しているのは、レトリックと行動の乖離である。2人ともハマースを鋭く糾弾し、ハマースは背教行為を犯していると言う。しかし、2人とも、ハマースに対する戦いはまだ裁可していない。

ジハード主義フォーラムのモデレーター

ジハード主義(インターネット)フォーラム(集会)のモデレーター(調整者)は匿名(あるいは、せいぜい偽名)だが、ジハード主義者の世界で最もパワフルな人たちに属する。彼らは門番であり、パブリック・アクセスをコントロールする。コミュニケ、書籍、ビデオは、一般的フォーラムに残されるか、フィーチャーされたポストやバナーに格上げされるか、あるいは二者択一的に除去される。フォーラムのメンバーはしばしばモデレーターの判断━イデオロギーの適合性と、所定のグループの重要性に関する判断━を信用する。

(インターネットの)ジハード主義フォーラムのうち最も重要な2つは「シュムク・イスラム(Shumukh Al-Islam)」と「ファッルージャ(Al-Falluja)」である。双方はラファフ事件に関し、それぞれ独自の声明を発表するという異例の措置を取った。シュムク・イスラムの声明は戦争宣言だった。「民主主義を宗教とした専制者すべてに対して戦争を宣言する。われわれはアッラーの法以外によって支配するアラブ(諸国の)専制者と、ガザの専制者(ハマースの意)を区別しない」※25

ファッルージャの声明は、ハマースを「背教と偽善のハマース」「シオンの息子たちの犬」と呼び、ラファフの殺戮は、パレスチナ人の殺戮の歴史に残るだろうと書いた。しかし、ファッルージャはシュムキ・フォーラムより慎重であり、依然ハマースに対し「悔い改めと後悔が無用になる日が来る前に、悔い改める」よう呼び掛けている。※26


写真説明:ジハード主義フォーラム「ファッルージャ」のバナー

別の人気フォーラム「アンサール・ムジャヒディーン(Ansar Al-Mujahideen)」はそのホームページに、固定バナー「パレスチナのイスラム首長国宣言以来(10)日が過ぎた」を付け加え、また、これ以外のバナーのほとんどを、ラファフ事件に対する反応に使っている。※27 (この「首長国」バナーは、多くのフォーラムの、アルカーイダの「イラク・イスラム国」用バナーを模倣したものだ)

「シャバカート・ムジャヒディーン・イリクトロニイヤ(Shabakat Al-Mujahideen Al-Iliktroniyya)」フォーラムも声明を発表し、とりわけ、新たに形成された「一神教とジハード集団」のアミール(首長)に忠誠を誓った。そして、同アミールに対して、イスラム首長国の指導権を掌握するよう呼び掛けた。「一神教とジハード集団」はこれまで2つのコミュニケ以外には何も行っていない。このため、このフォーラムの声明内容から、フォーラムのモデレーターと「一神教とジハード集団」との間に、事前の繋がりのあったことが強く窺えた。※28

アルカーイダに対する「草の根」の圧力

イブンタイミーヤ・モスク事件以前、アルカーイダ指導部と「草の根」との間にはハマースをめぐって明らかな乖離が生じていた。この乖離の明白な例に、アフガニスタンのアルカーイダ上級指揮官ムスタファ・アブーヤジード(Mustafa Abu Al-Yazid)の声明━「われわれとハマースは同一のイデオロギーと同一の教義を共有する」━がある。この声明はジハード主義フォーラム内に激しい反応を引き起こした。また、この声明に触発され、ジハード主義の影響力のあるイスラム法学者アブームハンマド・マクディシが反応エッセーを書いた。彼はこの中で、ハマースとの諸問題を詳細に説き、「われわれは同一のイデオロギーも、同一の教義も共有していない」と断言した。※29

ラファフの事件が起きたことで、ジハード主義の「草の根」はハマースに対して、これまでになく過激になった。「ファッルージャ」の上級メンバー、アブーシャディア(Abu Shadia)は「ハマースと対決する10の実際的なステップ」と言うドキュメントを書いた。彼が提案したステップの中には軍事的抗争とハマース軍事部門への侵入がある。※30 ハマースの手先を誘拐したと主張する「真実の剣旅団」のスレッドでは、多くが「殺戮せよ、殺戮せよ」と反応した。ビデオで“ザルカウィ・スタイル”の処刑を録画するよう促す者もいた。※31

この乖離をまざまざと示したのが、ジハード主義者とフセイン・ビンマフムード(Hussein bin Mahmud)の会合だった。彼の真のアイデンティティーは不明だが、アブームハンマド・マクディシやタルトゥシと違い、アルカーイダそのものに所属する人物と見られる。この会合の筆記録は「ルー(rooooh)」と呼ぶ「ファッルージャ」フォーラムのメンバーが掲載した。彼は、このところフセイン・ビンマフムードのジハード主義インターネットに対する“導管”になってきた人物だ。

「・・・兄弟:ラファフのイブンタイミーヤ・モスクのおける(ムスリム)兄弟たちのことをどう考えますか。

「師:とりわけ何に関してか。

「兄弟:(イスラム首長国の樹立)呼び掛けです。

「師:彼らがこんな風に呼び掛けたことに誰もが驚いたように、われわれも驚いた。ともかく拙速だった・・・

「別な兄弟:これを(パキスタンの)赤いモスク事件に比べた兄弟たちもいるが。

「師:あなた方は判断する前に、個人個人の(さまざまな)考え、主張、信頼性を知る必要がある・・・あなた方はこうした知識がないまま、判断したに過ぎない。あなた方は調査し、信頼できる学者に尋ね、それから判断すべきだった・・・

「兄弟のひとり:われわれは、この問題に関するあなたの見解を知りたい。

「師:私はすべての事実を知っているわけではない。しかし、私には、(イブンタイミーヤ・モスクの)兄弟たちはあまりに性急だったように思われる・・・

「ある兄弟:師よ、どうすれば良かったのか。

「師:悲劇が起きる前に、冷静な人々が、この悲劇を止めるため2つのグループ(つまりハマースとイブンタイミーヤ・モスクにいた者たち)の間を調停すべきだった。

「兄弟:(ジハード主義)フォーラムの兄弟たちは、ハマースとカッサム(旅団、ハマースの軍事部門)、そして(イブンタイミーヤ・モスクで)これらの兄弟たちを殺害した者たち全てを背教者と宣言した。

「師:ムジャーヒドゥンに対するハマースのスタンスは、どんどん悪くなっている。われわれはアッラーに対し、彼らを善導するよう求める。

「兄弟:師よ、兄弟たちがハマースを背教者と宣言することを正しいとは思わないのか。

「師:タクフィール(他人を背教者と宣告すること)はそう容易には宣言されるものではないと、私はあなた方に繰り返し述べてきた。これは単に何らかの(抽象的な)態度に対するタクフィールではなく、個人に対するタクフィールの宣言である。兄弟たちは知識もないまま、これに飛び込んではならない・・・たぶん、人の信仰にとっては、この問題に関し、勇気よりも臆病であることがベターである。

「兄弟:われわれは、この事件について、あなたがはっきりした立場を取ることを望む。

「師:あなたがたの指揮官たち(つまりアルカーイダの指揮官たち)が言うことを待って、聞きなさい。

「兄弟:事態が真昼のように明らかなのに、なぜわれわれは事態の説明を待たねばならないのか。

「師:事態が真昼のように明らかだとあなた方が思うなら、誰(の言葉)も待つことはない。私のような者は(アルカーイダ指揮官たちの見解表明を)待つ・・・

「兄弟:兄弟たちが流した血に復讐するよう呼び掛ける者たちもいるが。

「師:誰に復讐するのか。

「兄弟:ハマースとカッサム(旅団)だ。

「師:(ジハード主義者とハマースが)やり合うなら、誰がガザの境界に立って、ユダヤ人と対決するのか。

しつこく迫られたフセイン・ビンマフムード師は、ハマースに関する意見をこう述べた。ハマースは本質的に間違った道を歩んでおり、正しい道に呼び戻され、ムジャーヒドゥンと協力することが望まれる。それから、師は会合に集まった人々にこう尋ねた。

「師:事件に関するあなた方自身の見解はどうか。

「兄弟:われわれは(イブンタイミーヤ)モスクの兄弟たちと一緒である。今日以降、ハマースに尊敬の念は持たない。

「師:あなた方はすべて同意見なのか。

「(兄弟たちは沈黙している)

「師:ともかく、われわれは(アルカーイダの)指揮官たちが何を言うか聞くまで待つ・・・

フセイン・ビンマフムードの発言は、師がこれまで一般に人気を得ていたジハード主義フォーラムでかつてない批判を浴びた。筆記録が最初に掲載されると、批判が激しかったため、モデレーターはコメントのスレッドを閉鎖した。※32

まとめ

驚きの事件だったラファフの蜂起は、ハマースが(打って変って)ジハード主義者の第一の敵に変わる強力な触媒になった。この問題に関し、ガザの諸グループとジハード主義フォーラムが示したように「草の根」は既に過激化し、今やアルカーイダ指導部よりも無所属のイスラム法学者アブームハンマド・マクディシの見解を信奉する。もっともマクディシと、ガザのジハード主義の既存グループはハマースと全面戦争に入ることになお慎重である。しかし、「草の根」がサラフ・ジハード主義者に圧力を掛け続け、ハマースが同主義者をひどく弾圧し続けるなら、既存のジハード主義グループは全面戦争に踏み切る可能性がある。

アブームハンマド・マクディシがパレスチナの「一神教とジハード集団」の背後にいるという話が本当ならば、たぶん同グループは今後ジハード主義の統一党派として台頭し、ハマースに対する強力な挑戦者になるだろう。物質的力量の点で、サラフ・ジハード主義者がハマースと争えないことは明白だ。しかし、前者は、イデオロギーでハマースに挑戦し、ハマース武装部門の、今やグローバル・ジハードに同情を深めている兵士たちを(ハマースから)引き離そうとするだろう。将来ガザで何が起きようと、“イブンタイミーヤ・モスク事件とその後”の影響から、アルカーイダ上級指導部は路線を逆転させ、ハマースに対してより強硬路線を取るか、あるいは、アルカーイダに代わるジハード主義指導者に、この問題に関する主導権を譲ることになろう。

*ダニエル・ラブは(MEMRIの)「ジハード・テロリズム脅威モニター(Jihad and Terrorism Threat Monitor)」部長である

注:

[1] Al-Sharq Al-Awsat (London), August 16, 2009;

http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=79199, August 16, 2009.

[2] http://www.memrijttm.org/content/en/blog_personal.htm?id=1729&param=GJN, August 13, 2009.

[3] 例えばアイマン・ザワーヒリ(Ayman Al-Zawahiri)は最近のビデオで(暗殺された

ハマースの指導者)アフマド・ヤシン師(Sheikh Ahmad Yassin)とアブドルアジーズ・

ランティシ('Abd Al-'Aziz Al-Rantisi)を賞賛した:

http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=77119, August 3, 2009.

[4] アルカーイダとハマースの緊張に関しては、以下で見ることができる:

http://www.memrijttm.org/content/en/report.htm?report=2858%C2%B6m=IDTA&auth=c4449c50b819c5298cf70a7a81affc5d, September 15, 2008.

[5] http://www.memrijttm.org/content/en/blog_personal.htm?id=1286&param=APT, June 9, 2009;

http://www.memrijttm.org/content/en/blog_personal.htm?id=1310&param=APT, June 15, 2009.

[6] http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=78531, June 13, 2009.

[7] http://www.janah.ps/archive/bayan/emara.doc .

[8] http://majahden.com/vb/showthread.php?s=0018958eb65c3894075d0c2b4d83326e&t=27724, August 16, 2009.

[9] http://www.memrijttm.org/content/en/blog_personal.htm?id=1575¶m=GJN,

July 23,2009.

[10] http://www.memrijttm.org/content/en/blog_personal.htm?id=1624&param=GJN,

July 30, 2009.。

これらの問題が原因して、Global Islamic Media Frontはジャイシュ・イスラムの主張の掲載を中止したのかもしれない。もっとも同組織は、自ら接続を解除したと主張している。http://alflojaweb.com/vb/showthread.php?t=69740, June 24, 2009.

[11] http://www.memrijttm.org/content/en/blog_personal.htm?id=225&param=GJN,

May 11, 2007.

[12] http://www.memrijttm.org/content/en/blog_personal.htm?id=284&param=APT, June 27, 2007.

[13] http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=79303, August 16, 2009.

[14] http://www.palvoice.com/index.php?id=19492, August 16, 2009.

[15] http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=79289, August 16, 2009.

[16] http://www.shmo5alislam.net/vb/showthread.php?t=46969, August 16, 2009.

[17] http://www2.memri.org/bin/articles.cgi?Page=archives&Area=ia&ID=IA23905, September 11, 2005.

[18] http://www.memrijttm.org/content/en/blog_personal.htm?id=1039&param=JT, April 30, 2009.

[19] http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=79349, August 16, 2009.

[20] http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=79327, August 16, 2009.

[21] http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=79329, August 16, 2009.

[22] 以下を見よ。

http://www2.memri.org/bin/articles.cgi?Page=archives&Area=ia&ID=IA23905, September 11, 2005;

http://www.memrijttm.org/content/en/report.htm?report=3368&param=AJT, June 26, 2009.

[23] http://www.tawhed.ws/r?i=badhamas, August 15, 2009.

[24] http://www.abubaseer.bizland.com/hadath/Read/hadath%2062.doc, August 16, 2009.

[25] http://shamikh.net/vb/showthread.php?t=46783, August 16, 2009.

[26] http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=79373, August 16, 2009.

[27] http://www.as-ansar.com/vb/ .

[28] http://www.majahdenar.com/showthread.php?t=27758, August 16, 2009.

[29] http://www.memrijttm.org/content/en/report.htm?report=3478&param=JT, August 11, 2009.

[30] http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=79290, August 16, 2009.

[31] http://www.shmo5alislam.net/vb/showthread.php?t=46969, August 16, 2009.

[32] http://www.al-faloja.info/vb/showthread.php?t=79166

http://al-faloja1.com/vb/showthread.php?t=79230, August 16, 2009.


 

 

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